桔ザク

「紅い色はとても綺麗ですね」
「……この状況で言う言葉か?」

うっとりとした表情で呟く桔梗に、地面を濡らす赤い水溜りを踏み分けていたザクロは、口元を引きつらせながら聞いた。

「綺麗ではありませんか、貴方の色ですから」
「うれしくねーぜバーロー」

頼むからこの色と一緒にしないでくれ、と鉄さびの臭いが立ち籠める中、頭を抱えたくなった。

「もっとも、誰のものともつかない汚らわしい体液色より、沈みゆく太陽が一瞬だけ見せる夕紅色を切り取ったかのような貴方の色の方が、天と地ほどの差で美しいですよ」
「褒められてる気がしねーよ」

この場所で、靴の底を濡らす誰のものともつかない色と比べられて、誰が嬉しがるものかと。
聖母のごとく微笑を浮かべる桔梗を見かえした。

「ハハン、気に入りませんでしたか?」
「ベッドの上でならまだしも、ここで言われたら興醒めするぜ普通」
「では、早く帰りましょう」
「……ベッド直行コースじゃねーだろうなバーロー?」
「ハハンッ、ベッドの上でしたら、いくら褒めてもかまわないのでしょう?」

微笑を絶やさずに言う桔梗に、こいつの頭の中大丈夫かよ、と頭の出来が違う相手との差を考えた。



褒め方
せめて、まともな状況で……


end
(2010/05/25)
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