桔ザク

「うっとうしいなバーロー」

何で旅館に閉じこもってなきゃいけねーんだよ、と如実に顔に出ているザクロは、外を見ながら呟いた。

「ハハン、白蘭様から頂いた休日ですよ? そんなに不満そうな顔をしないでください」
「何で休日が日本の山奥なんだよ。しかも何だこの天気は、うっとうしくてしょうがねーだろ」
「温泉を楽しみにしていたのは貴方のはずですよ? ちょうど梅雨の時期に当たってしまっただけですよ」

外を眺めれば止むことの無い雨と空を覆い隠す灰色の雲。
気が滅入りそうなほど降り続ける雨に予定は総崩れだった。

「もっとカラッと晴れた時期もあんだろ、気が滅入りそうだぜ」
「ハハン、これでも日本ではジューンブライドに憧れているそうですよ?}
「こんなじめじめとした時期に結婚式だぁ? 食中毒でも起これバーロー」
「酷い言いようですね」

クスクスと笑いながら桔梗はザクロの隣へと座り、同じように外を眺めた。

「こんな時期だからこそ、日本ではジューンブライドと言い訳を広めたのかも知れませんね」

もとは結婚式場の策略らしいですよ、と桔梗が言えば、横目で桔梗を眺めたザクロが鼻で笑った。

「だろうなバーロー、もとは天気がいい日が続くからだろ」
「そしてオレンジの花がちょうど咲く時期でしたね」

晴れた日に、白いオレンジの花を飾った花嫁が祝福されながら行われるもの。
本来のジューンブライドとは程遠い外の天気を眺めながら、一層やる気の起きなくなってきたザクロはその場に突っ伏した。

「だりー、早く帰りてーぜバーロー」
「ハハン、せっかく二人だけで来たのですよ? そんな風に、あからさまに帰りたがらないでください」

苦笑をしながら優しく問いかける桔梗に、軽くニヤリと笑いながら言葉を返した。



長雨に降られて
「だったら、今度は天気のいい日に連れて来いバーロー」


end
(2010/05/08)
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