桔ザク

「何で女じゃねーんだバーロー」
「ハハン、何か言いましたか?」

女だったらこれ以上に無いほど嬉しいんだろうけどな、と目の前の見慣れた美形を見ながら思った。

いや……別に女になりたいわけじゃない。
こいつが女だったらどんなに良いかと思ってるだけだ。

熱烈な愛の告白はよーくわかるけどなぁ、範疇外って言葉知ってるかバーロー?
見た目とかだけならまだ好みだけどな、美人で髪の手入れも行き届いてて、やわらかい言葉遣いで……

いや、本当に……女だったら俺も乗り気になるぜ?
でもなぁ、目の前の奴は同じなんだよ、何処とは言わねーけど、ご立派なもんがついてんだよ。
それだけで萎えるだろ普通?

ところが、こいつに限っては逆らしい、俺みたいなのでも完全に範疇内だとよ……

せめて女に興味もてよ、同じ真6弔花にもいるだろ、約一名ペチャパイの電波ちゃんが……
まぁ、手を出したら出したでロリコン疑惑か?

いや、せめて男は男でも、もう少し見目麗しいのにしとけバーロー。
もしくは若い奴を、デイジーとか……って、これもある意味犯罪か?

こいつと対等ぐらいの年齢で見目麗しい奴……どっかにいた気がすんだけどなぁ?

こう……何かほぼ毎日顔合わせてて……いや、トリカブトじゃねーぜバーロー?
女顔の桔梗に男らしい体格の巨人のトリカブトってのも美女と野獣みたいで似合ってるけどな。

女顔って言うとこいつは怒るけどな、女顔のくせに。
多少は嫌気が差してるみてーだけどなぁ、女と勘違いされて言い寄られるのに。
あー、だからか? 男らしく言い寄ってみたってか?

…………範疇外だって言ってんだろ気づけバーロー、人が考え事してる隙に手を握んな!
そして力いっぱい振り解いたのを意外そうな顔で驚くな。

たく、もう少し待て、もう少し考えればお前にピッタリな相手が思い出せんだバー……
おいッ、壁際に押さえつけんな!! 何勘違いしてんだ!?

たとえ鳩尾に拳を入れられても俺は悪くねーだろ、むしろ軽めにしてやっただけ感謝しやがれ。

チッ、こいつの邪魔のせいで思い出せそうなもんも思い出せなくなっちまうだろ。
何処まで思い出してたんだ? ……ああ、ほぼ毎日顔合わせてる、までだったか。
部下じゃねー事はたしかだ、となると限られてくるはずだけどなぁ?

いたはずなんだけどよぉ、桔梗の傍にいても見劣りしない……白蘭様みたいな感じのが……

ん? …………白蘭様か!?
そうだ、こいつに見劣りしないぐらいの容姿とそれなりの年齢なんて白蘭様しかいねーじゃねーか!!
よし、相手がわかった所でとち狂ってる桔梗を説得しようじゃねーかバーロー。

「桔梗、お前白蘭様と付き合え」
「ハハン? 何故白蘭様の名前が出てくるのでしょうか?」
「白蘭様の方が良いに決まってんだろ」
「……ザクロ、私は貴方が好きで告白をしたのですが」
「いいかバーロォ、そんなもん気の迷いだ、そういう事は白蘭様に言え」

暫くの沈黙の後、目を瞬かせた桔梗が首を傾げてから口を開いた。

「ザクロ、何か勘違いをしていませんか?」
「何がだバーロー」
「私は無差別に好きになるわけではありませんよ?」
「だから、白蘭様がいるだろ」

キョトンとした顔しやがって、まだ気がつかねーのかよバーロー?
俺よりも数倍頭が良いはずだろお前は、いい加減気づけ、相手なら白蘭様がいるだろ。

「……ザクロ、私は白蘭様にこの様な事をする気はまったくありませんが」

チッ、めんどくせー奴だなバーロォ。
俺がせっかく気づかせてやろうと思ったら白蘭様は嫌だと? 贅沢な奴だな。

「よし、ゲイの発展場行って来い、お前ならすぐ見つけられるぜバーロー」

俺に告白してる暇があるなら行って相手を見つけてこい。
お前ならできる! 自信持って行って来い!
……って、桔梗、何してんだバーロー? 何また迫ってきてんだ?

壁際に追い詰めて何する気だ?
それから、何怒ったような目で不機嫌そうに睨みつけてくんだバーロー?
俺はまともな意見言っただけだろ。

「ザクロ、何故私が不特定多数の人物を見境無く誘うような事をしなくてはいけないのでしょうか?」
「バーロー、俺なんかに告白してる時点で切羽詰りすぎなんだよ、もう少し頭冷やして視界を広げろ」

ん? どーしたんだ桔梗?
あからさまにガックリと肩落としやがって。
何泣きそうになってんだ? 越えられない壁にぶち当たった様な軽い挫折感漂わせてよぉ?



平行線上
「ザクロ……私は、貴方が、好きです」

だから、いっぺん頭冷やしてこいって言ってんだろバーロー


end
(2010/05/06)
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