桔ザク

体の熱がゆっくりと無くなっていくのも。
ひんやりとした肉の塊と化したものを触るのも。
二度と体験したくなかった。

「ハハン……まだ起きていたのですか?」
「バーロー、夢見が悪かっただけだ」

ゆるやかに目を開け、こちらを見てくる桔梗に言葉をぞんざいに返した。
目を閉じれば、二度と見たくは無かった光景が蘇りそうで、今更思い出すものなのか、と苛立った。

「ザクロ」
「気にすんな、テメーは寝てろ」
「……そう言われて、本当に寝る人物がいると思いますか?」
「ッ……何すんだバーロォ!!」

いきなり引き寄せられ、強制的に横にさせられた。

「ザクロ、今、目の前にいるのは誰ですか?」
「ああ? ……真6弔花の優しいリーダーの桔梗様かバーロー」

舌打ちをして憎まれ口を叩けば、桔梗の腕に包まれているせいで顔は見れないが、明らかに苦笑しているのだろうとわかった。

「ハハン、そうですね……ザクロ、今貴方の目の前にいるのは私です」
「そうだろうな」
「私は真6弔花の中で一番強いですよ?」

断言をするように言う桔梗に、何言ってやがる、と反論をしたくなったが。
おそらく桔梗が言いたい事は……

「ケッ……バーロー、俺が先に死ぬとでも言いてぇのか?」
「ハハン、そういう意味ではないのですが」
「つーか、離せバーロォ、ガキじゃねぇぞ」

心臓の音さえ聞こえそうなほど近くにいる中で言うのは、今更な気がしたが。
安心させるためだけに、こうされているのが嫌だった。

「心臓の音を聞いていると、よく眠れるそうですよ」
「子守唄代わりだってか? それこそガキくせーだろ」
「素直ではありませんね、温かさを感じていれば、少なくとも夢見は良いと思いますが?」

お前は何でもお見通しかよ、と悪態をつけば。
桔梗独特の笑い方で笑われた。



心音
根拠の無い言葉の実証


end
(2010/05/03)
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