桔ザク

それは唐突に、本当に唐突に。
昼寝をしていたら叩き起こされ抱きつかれた。

「あの……白蘭様、鼻水がつきそうなんですけど……」
「正チャンのバカー! せっかく正チャンの歳の数だけ赤いバラ持って告白したのに、いりませんの一言で返すなんて!!」
「ちょッ……聞いてますか白蘭様?」

ぐりぐりと人の胸に顔を埋めながら子供泣きをする白蘭を前に、一瞬この人物についていって本当に良いのかと悩むザクロだった。

「聞いてよザクロ君! 正チャンたら僕と話す時はしかめた顔でしか話さないのに、スパナって言うのには笑いながら話すんだよ!?」
「……俺としてはその鼻水をどうにかして欲しいんですけど」
「あんなに笑うなんてッ、可愛かったけどできれば僕の前でして欲しかった!!」

またしても抱きつき男の胸板で癒しを求めようとする白蘭に、頭がよすぎて一、二本ネジが外れる事ってあるのか……
と、自分の服に涙が染み込んでいくのを感じながら、冷静に考えていた。

「ハハン、白蘭様、そこまでにしていただけますか?」

いつの間にか近づいていた桔梗の声に。
慰めてくれる相手が増えたとばかりに白蘭はザクロの胸から顔を上げた。

「桔梗チャン! 聞いてよ正チャンたらね!!」
「後でお伺いをするので、まずザクロから離れていただけますか?」

子供に言い聞かせるように優しく……

「それより、聞いて桔梗チャン!」
「ハハン、後で聞くと言ったはずですよ、ザクロを離しなさい」

……優しく言ったのは一度までであり、二度目には強制的にザクロから白蘭をはがし、冷たい目で黙らせた。

「…………桔梗チャンつめたい」

グスリと涙ぐむ白蘭を無視して、ザクロの手をひいた桔梗は。
後で聞くといった約束は何処へいったのかと言いたくなるほど鮮やかに部屋を出て行った。

「おい、桔梗、いいのかよバーロー?」
「ハハン、白蘭様にかまけていると一日が終わってしまいますよ」

何気に酷い事を言う桔梗は、不機嫌そうにザクロの手をひき、歩いていった。

「何怒ってんだ?」
「貴方が白蘭様と一緒にいたからです」
「不可抗力だろバーロー……お前も後で白蘭様なぐさめに行けばあいこになるだろ」
「なぜ私がそんな面倒な事をしなくてはいけないのですか?」

バッサリと面倒と言い切った桔梗に、上司にそんな態度とって良いのかよ、と疑問に思ったザクロは。
少し前の桔梗の言葉に食い違いがあるように感じた。

「桔梗、お前、白蘭様第一じゃなかったのか?」
「尊敬はしていますが、貴方に抱きついている姿を見ると苛立ちます」
「……不機嫌になってる理由は俺が白蘭様に抱かれてたからか?」
「ハハン、そうですよ、先ほどから言っていたはずですが? もう少し、勘がよくなって頂けると助かりますね」

いまだに不機嫌そうに言う桔梗に、今度からは白蘭様を慰めるのもほどほどにするか。
と、どうやって桔梗の機嫌をもとに戻すか考える頭の片隅で思うのだった。



ほどほど
それが一番難しい


end
(2010/05/02)
76/100ページ