桔ザク

「ザクロ」
「は? 何だバーローうおッ!?」

名前を呼ばれ言葉を返そうとしていた矢先に、巻きつけられたのは雲桔梗。
引きずり寄せられたのは座っている桔梗の隣。

「おい! 放せバーロー!!」
「ハハン、一緒に飲み明かしませんか?」
「ビュンビュン草で人を拘束しながら言う言葉か!?」
「逃がさないための保険です」

首を少しかしげながら、ニッコリと笑みを向けてくる桔梗。

『いや、かわいくねーよ、そんな風に首傾げられても怖いだけだからな! 今から何されるか気が気じゃねぇこっちの身にもなってみろバーロー!!』

いっそ、相撃ち覚悟で逃げ出した方が良いかと言う考えが浮かんできた。
が、そんな考えを察知したのか、腰の辺りに巻きついていた雲桔梗が微妙にきつくなった。

「ッ……桔梗、逃げねーから少しゆるめろ」
「では、一緒に飲み明かしてくれますね?」

その手に持ってるアルコール度数が高い酒は何だ、と思いつつ。
種類豊富に机の上に置かれた酒ビンに、一瞬めまいがした。

ラム、テキーラ、ジン、ウォッカ、軒並みにアルコール度数の高い酒。
ストレートで、かつ大量に飲むものではないものだった。

『……視界の隅に映るすでに空になったビンの量が半端ねぇだろ、こいつ、この量でほろ酔いって、うわばみかバーロー……』

再度、逃げるべきかと悩んだ。
人並み以上に飲める自信はあったが、あくまで一般人よりは、と言うだけであり。
蒸留酒を一ビン以上飲んでもほろ酔いですむ化け物には対抗できない。
むしろ、対抗したら急性アルコール中毒どころでは済まない。

「どうぞ、ザクロ」

ニッコリと微笑みながらポーランド産ウォッカ・スピリタスを注いだグラスを差し出す桔梗の声が、死刑宣告のように聞こえた。



うわばみ
百薬の長は、清酒一合まで


end
(2010/04/29)
75/100ページ