桔ザク

「……よくあきもせずできるなバーロー」

爪をやすりで整えている桔梗を眺めながら。
男のくせに女みてーなことしてるな、とザクロは続けた。

「ハハン、時間つぶしにはちょうどいいですよ?」
「確かに暇だけどな」

ちらりと部屋の隅に立っているトリカブトを見るが、時を告げそうにもなかった。

「貴方の爪も整えてあげましょうか?」
「いるかバーロー、お前にやらせたら変なもんまで塗られそうだからな」
「マニキュアのことですか? さすがに私もそこまではしませんよ」
「本当かよ」

顔に化粧までしてるくせに、爪は整えるだけかと疑うザクロだったが。
確かに今まで一度も爪が変な色に塗られてはいなかった、とぼんやりと思い出した。

「あー、つまんねぇなバーロー」
「そうですね」

苦笑しながら言葉を返した桔梗は、また爪を整えるのに意識を向けた。

「…………桔梗」
「ハハン、何ですかザクロ」
「ひまだバーロー」
「そうですね」

視線を上げず爪の手入れをしている桔梗に、いささかムッときたザクロはもう一度声をかけた。

「つまんねぇな」
「そうですね」
『……こいつ、おざなりに返事しやがったな』

爪の手入れをしている桔梗を睨み、舌打ちをしてから背もたれへと身をあずけたザクロは不機嫌なまま目を閉じた。

「ザクロ」
「ああ? 何だバーロー」
「もう少ししたら、かまってあげますよ」

名前を呼ばれたので片目をあけ桔梗を見たザクロだったが、視線をよこさず言う桔梗に、ピキリと額に青筋が立った。

「知るかバーロー」

たとえ真面目に相手をしますと、言われても答えてやるものかと考えながら、ザクロは腕組みをして目を閉じた。

「……ハハンッ、目を閉じて五秒ですか」

クスクスと笑いながら手入れ用の道具を置いた桔梗は、寝息をたてているザクロを眺めた。

「かまって欲しいなら、素直に言えばこんな手入れいつでも後回しにしましたよ?」



ゆるやかな勝負
勝者のいない我慢比べ


end
(2010/04/17)
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