桔ザク

「おや、こんな所にいたんですか」

部屋へと入って来た桔梗は、ソファーで寝ているザクロを見つけ苦笑しながら近づいた。

「風邪をひいてしまいますよ?」

クスクスと笑い、無防備に横になっているザクロに毛布でも持って来ようかと思案しながら呟いた。

「桔梗ちゃ~ん! 会いに来たわよ~!!」
「……ハハン、この声は……」

無理矢理高くしている野太い声を聞いた桔梗は、引きつりながら扉の方向へと視線を向けた。

「あぁん、今日も、す・て・き~!!」
「ヴァリアーの方が、何の御用でしょうか?」
「いやぁん、私とあなたの仲じゃない」

うっふん、とサングラスの奥でウインクするルッスーリアを前に。
せっかくのザクロとの時間が削られていく、と忌々しく思いながらも。
表面上だけは丁寧に対応してしまう自分の性分を呪った。

「用件が無いようでしたらお帰りください」
「あら、用件ならあるわよ? 桔梗ちゃんに会いに来たのよ~!!」

いつの間にか近づき、ベタベタと触ってくるルッスーリアに対し、ゾワリと鳥肌がたった。

「ぐふぉぉ!?」
「ハハン、失礼しました」

鳥肌がたった瞬間に反撃をした桔梗は、青筋を立てながらも笑顔であやまった。

「ボ、ボディーブローなんて酷いわ……」

体をくの字に折り曲げ、思わず野太い声を出したのを、なかった事にして。
横座りをしながら、さめざめと高い声でルッスーリアは嘆いた。


「うるせーぞバーロー」

一連の騒ぎによって起きたザクロは、目を擦りながら不機嫌そうに呟いた。

「ハハン、起こしてしまいましたかザ――」
「ああん!! そこのあなた、名前は何て言ったかしら!?」
「あ?」

さめざめとしていたのが嘘の様に、起きたザクロへと近づき。
ルッスーリアはザクロの手を握り締めた。

「ハハン、何をしているんですか?」
「はっ!? 桔梗ちゃん、違うのよ、つい食べちゃいたいぐらい好みの子を見つけてしまっただけなの!!」
「そうではなく、今すぐにザクロから手を放しなさい」

言い訳をしながらも、ガッシリと握り締めた手を放そうとしないルッスーリアに。
凍りつきそうな殺気を放つ桔梗は、射殺しそうな目で睨みつけた。
訳が分からないまま、オカマに手を握られたザクロは、桔梗を見上げた。

「おい、桔梗、何があったんだバ……ッん!?」
「ザクロ!?」

桔梗を見ながら口を開いたザクロは、いきなり顔を掴まれ、口を塞がれた。

「んんッ!? ……ッ…!!」

舌まで入れられ、ディープに口内を貪られるザクロは抵抗をしようとするが、押さえ込まれてできなかった。
一方の桔梗は目の前の光景に硬直して動けなかった。

「はぁッ……」
「あら、中々いい顔ねぇ」

酸欠状態のザクロをようやく解放したルッスーリアは。
息の乱れるザクロへと軽く触れるだけのキスを残して立ち上がった。

「ごめんなさい桔梗ちゃん、あなたの事はもちろん好きよ……でも、この赤髪の子も気に入ってしまったの……」

くっと唇をかみ締め、顔を背けてから桔梗を見たルッスーリアは声を震わせながら叫んだ。

「優柔不断な私を許して!」

涙を拭うふりをしながら走り去っていくルッスーリア。
後に残されたのは硬直したままの桔梗と、茫然としているザクロだった。

「何だったんだバーロー……お前の新しい恋人か?」

茫然とルッスーリアが去って行くのを見ていたザクロは、頭がよく働かない中で呟いた。
その言葉に、ピクリと反応をした桔梗は喉の奥で笑いながら、雲桔梗のツルをザワザワと伸ばしていった。

「ハハン……本気で言っていますか、ザクロ?」
「いやッ、まて! 冗談だ!!」

桔梗の様子に、何か地雷を踏んだことに気が付いたザクロは、慌ててソファーから飛び退いた。

「ハハン、逃しませんよ?」
「何しやがんだバーロォー!?」

逃げようとした矢先に、体中をツルで拘束されザクロは床に突っ伏した。

「ザクロ、今すぐ消毒をしに行きますよ……その後でたっぷりと、そんな冗談が言えないようにしてあげます」
「冗談だって言ってんだろ!!」
「ハハン、聞く耳持ちませんよ」



晴れた嵐
はた迷惑は突然に


end
(2010/03/17)
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