桔ザク

「起きろザクロ!」
「んぁ? なんだバーロー」

ソファーの上で寝息をたてて寝ていたザクロはブルーベルの声に薄っすらと目を開けた。

「起~き~ろ~!!」
「あー、うるせーバーロー」

更に大声で起こそうとするブルーベルに、自分の耳を塞ぎながら寝ようと目をつむった。

「ザクロ……起きてよ…」
「お前までなんだ、デイジー」

おずおずとだが肩を揺らしてくるデイジーに、仕方なくしぶしぶ起き上がった。

「早くこれ着て作るわよ」
「…………あ?」

ブルーベルが出したのは黒いエプロン、ぼーっとしたまま受け取るが。
断片的過ぎるブルーベルの言葉に、訳が分からず聞き返すように声が出た。

「早くしてよ!」
「何作るんだよバーロー」
「お菓子に決まってるでしょ!!」

「……デイジー、通訳たのむ、電波ちゃんの言葉がわからねーぜバーロー」
「何だと!!」

怒ったようにポカポカと叩いてくるブルーベルを無視しながらデイジーを見る。

「僕チン達、ホットケーキが作りたいんだけど……火を使うのは桔梗かザクロがいないとダメだから……」
「桔梗の奴はどうしたバーロー、あいつがいれば一発だろ」
「桔梗がいないからアンタのところまできたんでしょ!」
「あーそーかよバーロー」

横からのブルーベルの言葉に適当に答えつつ。
二度寝する事がムリなことがよーく分かった、と心の中でぼやきながら。
仕方なく渡されたエプロンをつけた。


「で、何でお前ら髪縛ってんだ?」
「ホットケーキに髪が入らないようにするために決まってるでしょ? 桔梗と前に作った時に言われたのよ」

そんな事も知らないの、と言いたげに自慢するように言うブルーベルは、いつもの長い髪をポニーテールにしていた。

「ザクロも髪の毛を結わないと……」
「あ? お前らみたいに俺は長くねーから別に良いだろバーロー」
「でも、桔梗が、必ず髪はまとめないといけないって」

桔梗の言うことには素直に従う二人を見ながら、余計な事を言いやがって、と思いつつ。
デイジーが差し出してきた髪留めを取り、後ろ髪を無理矢理縛った。

「見ろバーロー、こんなもんしか縛れねぇぜ?」
「始めからそうすればよかったのよ」

チョコンと縛られた髪を見上げながら、ブルーベルは満足げにニンマリと笑い。
デイジーは安心したように、ほっと笑った。

「つーか、トリカブトでもいいんじゃねぇか? 俺じゃなくても」

キッチンについてから、ふと思い出したかのようにザクロがつぶやいた。

「トリカブトも桔梗と一緒に仕事に行ったよ……?」
「何で、そろいもそろって仕事行ってんだよバーロー」
「寝てたザクロが悪いんでしょ!」

ププ~っと笑いつつ、ブルーベルは既に作ったホットケーキの生地をザクロに渡した。

「はい、早く焼いてよ」
「火を使うのを見てればいいんじゃねぇのかよ?」
「何のためにエプロンつけてるのよ!!」
「わかったわかった、うるせーバーロー」

高い声で怒鳴ってくるブルーベルに眉を寄せつつ、適当に終わらせてやる、と思いフライパンに油をしき火にかけた。

「いい? きつね色でふわふわの、これみたいに焼いて!」
「レベル高すぎだろバーロー!」

ホットケーキミックスの箱にある写真を指差すブルーベルに悪態をつきながら、フライパンに生地を流して焼き始めた。


「ニュニュ~、こんなペッチャンコじゃない!」
「お前みたいにか?」
「ブルーベルはペチャパイじゃないわよ!」
「自分で言ってちゃ世話ねーぜバーロー」
「ニュ~!!」

きつね色には焼けるようにはなったが。
依然として平べったいままのホットケーキを囲みながら、考える三人。

「桔梗が焼いた時にはちゃんと膨らんだのになぁ……」
「あいつが帰ってくるの待った方が早いんじゃねぇか?」

生地もほとんど使い切り、何枚となく焼かれたホットケーキを眺め。
誰が食うんだと思いながらザクロが言った。

「絶対ふわふわのホットケーキを作るの!」
「ブルーベル、材料用意できたよ」
「まだ作るのかよバーロー……」

作る気十分のブルーベルとデイジーに呆れながら。
早く帰ってきやがれ、と仕事でいない桔梗を恨んだ。


「……何事ですか、これは?」

甘い香りがしてくるキッチンに来た桔梗は、中の状況を見ながら、不思議そうにつぶやいた。

「おー、桔梗かバーロー」
「ハハンッ、どうしましたザクロ、ひどくそそられる格好ですね?」

エプロン姿でダレるザクロを見つけた桔梗は、微笑みながら近づいた。

「冗談言ってねーで、あいつらどうにかしろバーロー」

近づき、うなじを触ろうとしてくる桔梗の手を叩き落としながら、文句を言うようにザクロは指差した。

「ハハン?」

指差された方向には、まだホットケーキの生地を混ぜているデイジーとブルーベル。

「あっ、桔梗……」
「ニュニュ、帰ってきたの?」

ベトベトの生地を顔やエプロンに付けつつ振り向いた二人に、苦笑しながらつぶやいた。

「ハハン、少し待っていてくださいね?」



「では、作りましょうか」

エプロンをつけ、髪をまとめ直した桔梗は、ドロドロに汚れていたキッチンを綺麗にしてから、手際よく準備を始めた。

「ホットケーキ作りのコツは、あまり混ぜすぎない事です、混ぜすぎると膨らみにくくなってしまいますから」
「にゅ……」
「みろバーロー、やっぱりお前が混ぜたからだな」

桔梗の言葉がグサリと突き刺さったブルーベルは、ニヤリと笑いながら言ってきたザクロの足を蹴った。

「それから、予熱が弱すぎると平らになってしまいます、ある程度、フライパンが高温の状態で生地を流しこむ事により、生地が膨らみ、上部にやわらかい生地が残り、これがひっくり返した時にもう一度膨らむのです」
「げっ……」
「ザクロ、予熱してなかったよね?」

それぞれに失敗の原因を担当したブルーベルとザクロは、気まずげに外方を向いた。
こんがりときつね色に、厚みをもったホットケーキを作り終わった桔梗は、そんな二人をよそに微笑みながら言った。

「ハハン、出来ましたよ」



胸焼けがするほど
焼かれた、たくさんのホットケーキ

「作りすぎたなバーロー」
「ハハン、では、白蘭様をお呼びしてから全員でお茶の時間にしましょう」


end
(2010/03/02)
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