桔ザク

「ハハン、綺麗ですね」

散りゆく桜を見ながら桔梗はザクロへと話しかけたが。
ザクロは頻りと周囲を見ていたため桔梗の言葉は聞いていなかった。

「たく、あいつら何処まで買いに行ったんだバーロー」
「手酌で飲みながらでは心配している様子も半減していますよ?」
「うるせーバーロー、お前も飲むか?」

片手に持っていた酒ビンを揺すり、ニヤリと笑いながら勧める。

「では、少しだけ」


「桔梗! 買って来たよ!!」

両手一杯にお菓子や食べ物を持ちながら、ブルーベルは桔梗とザクロが待っている場所へと走りながら戻ってきた。

「ハハン、たくさん買いましたね」
「だって、どれも美味しそうだったのよ?」

持っていた物を置きながら、ブルーベルは桔梗の隣に座り込んだ。

「ブルーベル、先に行くなんて酷いよ……」

少し遅れて来たデイジーが、前が見えないほど積まれた食べ物をヨロヨロと持ってきながら、困り顔でつぶやいた。

「デイジーが遅いのがいけないのよ!」
「そんな……」

ようやく積まれていた物を置いたデイジーは、ブルーベルからの言葉に落ち込みながら座った。

「やっぱり、ガキはガキだなバーロー」
「ニュ! 何よ、ザクロ!!」
「食い物にしか興味がいかない時点でガキだろ?」

ビンを片手にすっかり出来上がっているザクロは、上機嫌でブルーベルをからかった。

「ガキじゃないわよ!」
「じゃあ食い物以外に興味があるのか?」
「ふん! ブルーベルはガキじゃないからザクロが飲んでるのぐらい飲めるわよ!!」
「あー? 飲めるわけねぇだろバーロー」

ザクロからの挑発ともとれる言葉に、顔を真っ赤にしてブルーベルは睨みつけた。

「じゃあ貸しなさいよ!」
「駄目だよ、ブルーベル!?」

デイジーの言葉も聞かず、ブルーベルはザクロが持っていたビンを持ち、口を付け飲み始めた。

「きっ、桔梗! とめようよ!?」

隣で静かにその様子を微笑みながら見ていた桔梗に、慌てて助けを求める。

「ハハン、ブルーベルは女の子なのですから、一気飲みではなく、コップに移してから飲みましょうね?」
「ニュ、わかった!」
「……桔梗?」

桔梗の言葉に、驚きながら見返すと、苦笑しながら小声で返された。

「大丈夫ですよデイジー、アレはブドウ酒に見立てたジュースですから」
「えっ?」
「ハハン、ザクロは酔っているので気が付かなかったようですが」
「ブルーベルが酔ってるように見えるけど?」
「気持ちの問題でしょう」

上機嫌に返事をした後のブルーベルは、キョロキョロと周囲を見回し、コップを見つけようとしていた。

「あった!」

ようやく見つけたコップに早速ビンの中身を注いだ。

「バーロッ! 何しやがる!!」

注いだ先は、ザクロが持っていたコップだった。
零しながら並々と注がれ、手や服を濡らしたザクロは怒鳴りながらブルーベルを睨んだ。

「ププ~! ザクロのワイン漬けだ!!」
「何だと!」
「ハハン、勿体無い事をしますね」

濡れたザクロの手をとり、そっと口をつけて舐める桔梗。

「バーロぉ、くすぐってーだろ?」
「飲み物は粗末にしないものですよ」

そう言いながら、首筋など違うところを舐め始めていた。


「……桔梗、もしかして酔ってる?」

デイジーはいぶかしみながらつぶやいた。
今までしっかりとした口調のため気がつかなかったが。
よく見れば、ほんのりと桔梗の頬には朱が入っていた。
ふと下を見ると、日本酒の空瓶が転がっている。
おそらく、ブルーベルが持っているのはジュースなのだろうが、その前までは確かにお酒を飲んでいたのだと分かった。

「……ッ、やめ、いい加減にしろ、ききょッ……」
「ハハン、まだ付いていますから」

むずがるように身をよじるザクロを軽く押し倒しながら、ザクロの服の下に手を入れる桔梗。
茫然としているデイジーの前で、大人達は明らかに危ない方向へと向かい始めていた。



お花見ですけど……
限度を守りましょう


end
(2010/02/21)
38/100ページ