桔ザク

「どうぞ、ザクロ」
「……何考えてんだよバーロー」

差し出されたのは、ラッピングされた高級そうな箱。

「ハハン、貴方が気に入りそうなチョコレートを用意しました」

シックな茶色の包装紙とワインレッドのリボンのかかった箱を持ちながら、極上の笑みを向ける桔梗。
自分で買ったのか、や、買ったなら女に混じってばれないお前がすげぇよ……など様々なツッコミを入れたくなったが。
差し出されたソレを受け取る気は無かった。


「それとも、薔薇の方がよかったですか?」


受け取ろうとしない様子に、単純に薔薇の方がよかったのかと本気で聞いてくる桔梗に頭痛がしてきた。

「何で俺にソレを渡そうとするんだバーロー!!」

怒鳴りつけると、一瞬だけ驚いた顔をしたが、次の瞬間には、何を当たり前の事を、と言った様子で言葉を返してきた。

「ハハン、今日はバレンタインですよ?」
「何か間違ってるだろ、バーロー……」

本気で頭痛がしてきた。

「日本ではチョコレートを配るそうですから」
「女限定だろ」
「ハハン、本来は親しい人物にカードや花を贈るのですよ」
「どっちかにしろよ、バーロー」

チョコレートにしても花にしても受け取る気は無いが。
いつまでも箱を差し出し続ける桔梗に、受け取らない事には、済まされそうにない事が分かり、しぶしぶ受け取った。

「変なもん入れてねぇだろうな」
「御自分で確かめてみては、いかがですか?」

余裕の表情で微笑みながら言ってくる桔梗に、舌打ちしたい気持ちだったが。
これで本当に変なものが入っていたら文句を言ってやる、と思い、その場でリボンや包装紙をとっていった。

中身の高級そうなトリュフを見て、呆れを通り越して感心すら覚えた。

「……食べて良いのか?」
「ええ、どうぞ」

明らかに手のかかったソレに、手を伸ばし口に含んだ。
此処で味が壊滅的だったら、手の込んだ悪戯で済まされるが、口の中に広がるのは、洋酒のきいたチョコの味だった。
本気で、ただチョコレートを贈ってきた桔梗に対して、ストレートすぎるだろ、と逆に恥ずかしくなってくる。

「味はいかがですか?」
「あ? ……まぁ、うまいなバー、ッ!?」

いきなり顔を固定され、今しがたまで味わっていた口内の物を絡め取られた。


「ハハン、お気に召して光栄ですよ」



味見がメインですから
「何しやがんだバーロッ!」
「たんなる味見ですよ」


end
(2010/02/14)
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