桔ザク

「ハハン、どうしました?」
「……何でもねーぜバーロー」

具合が悪そうに眉を顰めていたザクロに、声をかけた桔梗。
明らかに、力の無い返事にザクロの額へと手をかざした。

「熱があるようですね、風邪ですか?」
「だから、何でもねーって言ってんだ…ッ」

桔梗の手を振り払おうとした瞬間、乾いた咳が出てきた。

「風邪のようですね」
「うるせッ、バーロー」
「桔梗、ザクロ風邪なの?」

ブルーベルが桔梗の言葉を聞き、近づきながらザクロを見てふきだした。

「ププ~、やっぱりザクロってバカだったんだv」
「ハハン、誰でも風邪をひくものですよブルーベル? 病気の人には優しくしてあげましょう」
「バーロッ! テメーらうるせーんだよ!!」

桔梗がやんわりとブルーベルに注意するのを聞いて、病人扱いされたザクロは怒鳴った。


「ニュッ、こんなに元気だったら一人でも大丈夫でしょ! 行こう桔梗!!」

ブルーベルに腕をひかれる桔梗は、振り向きながらザクロへと言葉をかける。

「早く休むことをお勧めしますよ?」
「余計なお世話だバーロー!!」

ブルーベルや桔梗には、余計な事だと怒鳴り返したが、今は熱が上がり、体の状態が悪くなってくるのがわかる。


「う~、だりぃ……」


自分の部屋へと戻り、何も考えたくないとばかりにベッドへと突っ伏し、のろのろと布団を引き寄せ、目を閉じた。


ふと暑苦しさに目が覚めた。

「……ッ」

喉が渇き、水を飲みに行こうとして、身じろぎをしたが、熱で火照る体は思うように動かせなかった。

「ハァ…ッ……」

部屋の扉が、微かな音をたてて開いた。
近づいてくる人物に対し口を開く。


「桔梗……」

痛む喉から、かすれた声が出た。
乾いた咳をしながら、潤んだ目で、ザクロは桔梗を見る。

「……何でいるんだバーロー」
「あまり熱い目で見られても、困りますよ?」
「誰が! ……ッ」

叫んだ瞬間に咳き込んだザクロは、体を丸めながら治まるのを耐えた。

「ハハン、先ほどより悪化しているようですね」
「どっか行けバーロー……」

熱に浮かされた様子でも拒絶するザクロに、一瞬だけ困った様な顔をした桔梗は、次の瞬間には、からかう様に口を開いた。


「ハハン、もう少し素直になったらいかがですか?」

濡れたタオルをザクロにかぶせる桔梗。

「何すんだよッ……」

ヒンヤリとしたタオルに驚いたが、熱が少しだけ緩和された。

「動物ではないのですから、寝ているだけで治そうとしないでください」
「うるせぇ」
「ハハン、人の親切は聞くものですよ?」

悪態を吐きながらも、安心したように目を閉じるザクロに、桔梗は苦笑した。


「お前まで風邪ひくぞ……」

ゆるりと目を開け、かすれた声でつぶやく。


「それは、私への心配ですか?」
「お前なんて風邪移っちまえバーロッ」

不貞腐れたように本気で言うザクロ。

「そうすれば、風邪が治るから……ですか? ハハン、移せば治ると言うのは迷信ですよ」

まだ熱で火照るザクロの頬に手を伸ばし、ゆっくりと近づいた。


「ですが、貴方が望むのなら」



病はキから
移されるような事を、しましょうか?


end
(2010/01/28)
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