断片話

◆蚊


細く鳴り続ける音に我慢できなくなったブルーベルは立ち上がり、音の根源へと意識を集中させた。

「ニュ!」
「いてぇ!? 何しやがんだバーロォ!!」

ベチリと音を立ててザクロの額を叩いたブルーベルは、自分の手の平を眺めて呟いた。

「……逃がした」
「はぁ?」

答えになってねーよ、とザクロが言う前にブルーベルは反対側を向いていた。

「ニュ!!」
「ぼばっ!? な、何、ブルーベル……?」

次はデイジーの頬を叩いたブルーベルは、また叩いたばかりの手の平を眺めて呟いた。

「……逃げた」
「え?」



「ニューッ、うるさいのよさっきから!!」
「おいッ、こんな部屋の中で何出そうとしてんだ!?」

リングに炎をともし、胸元のボックスへと持っていこうとするブルーベルの手首をザクロは慌てて掴んだ。

「放してよ! 絶対潰してやるんだから!!」
「何をだバーロー!」
「さっきから耳元でうるさいし、ブルーベルばっかり刺されるんだもん!!」
「は?」
「……もしかして、蚊の事?」
「そうよ!」

断言するブルーベルに対し、手首を掴んでいたザクロはくだらねぇと思わず言いそうになった。


(2011/08/16)
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