断片話

◆雨下


「雨に濡れて帰るのも、たまにはいいかもしれませんね?」

しとしとと霧雨が降る中、無言で隣を歩くザクロへと桔梗は微笑みながら訊いた。
桔梗の言葉に反応をしないザクロは、眉を寄せたまま一層歩を早めた。

「ハハン、そんなに濡れるのが嫌いですか?」
「うるせぇバーロー。無駄口叩いてねぇで行くぞ」
「おやおや、せっかちですね。少しぐらい情緒と言うものがあっても良いかと思いますが」

小馬鹿にするように喉の奥で笑う桔梗に、不快に思ったザクロは足を止め振り返った。

「こんな雨の中歩いてて、不快に思わねー方が変だろ」

相当に機嫌の悪いザクロは睨みながら言い放った。
そんなザクロを刺激しないよう、やんわりと桔梗は口を開いた。

「ハハン、不快に思わない訳ではありませんよ? ただ、今日はたまたま雨に濡れるのも良いかと思ったまでです。ちょうど傘もありませんし」
「それが信じられねーつってんだろバーロー」

雨でしっとりと濡れた髪を乱雑に掻き揚げたザクロは、時間の無駄だとばかりに桔梗を無視して歩き出した。


(2011/02/11)
18/80ページ