パロ系

……あるところに、綺麗な長い髪を持ったキキョンツェルと言う男性がおりました。

「桔梗チャーン、髪下ろしてー」

入口の無い塔に閉じ込められているキキョンツェルは、魔法使いの言葉により結った長い髪を下ろしました。
その髪を手に取り魔法使いは塔を登ります。

「白蘭様、髪が傷むので次からは縄梯子でもよろしいですか?」
「うーん……何のために桔梗チャンが上にいるんだっけ?」
「ハハン、弦の方がよろしかったですか?」
「縄梯子の方が良いなー」

魔法使いに抗議し、髪を使わせない約束をしたキキョンツェル。
髪が痛む心配をする必要が無くなり、安心して塔の上から解いた髪を垂らしていました。


「何だバーロー?」

塔から垂れ下がるのは、淡いエメラルドグリーンの……糸の束に見えるもの。
気まぐれに通り掛かった商人のザクロは、訝しみながら近寄りました。

ぐいっと引っ張れば確かな手応え。
太陽の光に照らされ、キラキラと反射するほど綺麗な糸の束。
それはやわらかな質感を持っていて、触るとサラサラと手の上を滑りました。

「布にすれば高く売れそうだな」

天高くそびえる塔の上まで続く新種の糸らしきもの。
珍しい色合いに滑らかな肌触り。
一瞬にして弾き出した答えに、暫くその場で考え込みました。

「他人のものかもしれねーしなバーロー……」

人里離れた場所に建つ塔から垂れ下がるそれを見ながら、ため息をつきました。
離れがたいほどに手に入れたいものでしたが、諦めることにしたザクロは、踵を返して歩き出そうとしました。

「ああ?」

何となく、後ろ髪、と言うより服を引っ張られるような感覚。
後ろを振り返るザクロでしたが、後ろには先程見た綺麗な糸の束しかありませんでした。

「気のせいかバーロォ?」

頬を掻き、首を傾げてからザクロはまた塔に背を向けました。

また服を引っ張られるような感覚。
いい加減いらついたザクロは、今度は勢いよく振り返りました。

「…………」

服を引っ張っていたモノの正体はわかりました。
ただ、その正体を見たザクロは片手で顔を覆い黙った後、何事も無かったと自分に言い聞かせようとしました。

「世の中んな甘くねぇってか……」

ため息をつき手を外し眺めるのは、服を掴む、塔から垂れ下がっていた糸の束だったもの。
今はスピノサウルスになっているそれは、勢いよくザクロを塔の上へと引きずり込みました。

「ハハン、突然に招き入れ大変に申し訳ありませんでした」
「下に戻せバーロー」

怒鳴り付ける気力すら無いザクロは、塔に引きずり込んだ張本人を力無く見ました。

「いやです」

無駄だとはわかってはいましたが、バッサリと断ったキキョンツェルにザクロはめんどくさいと思いました。
できれば、素直に応じてくれればと遠い目で考えましたが、優しげな表情の相手は話しを聞きそうにありませんでした。

「私と一緒に暮らしていただけますか?」
「断る、つってもどーせ聞かねーんだろ?」
「ハハンッ、話しが早くて助かります」

誰も了解はしていない、と突っ込みを入れたくなったザクロでしたが、
窓辺に控えるのは自分を引きずり込んだスピノサウルス。
逃げられそうにはありませんでした。


「桔梗チャーン、縄梯子……」

魔法使いが声を掛ける前に、すでに縄梯子は下りていました。
いつもならあるはずの結われずに流された髪は、今日に限りありませんでした。
何となく疑問に思った魔法使いでしたが、ま、いいかと軽く考え、縄梯子を上り始めました。

「あれ? 桔梗チャン珍しいね、修羅開匣してるなんて」

縄梯子に足をかけたまま、窓から部屋の様子を見た魔法使い。
髪をスピノサウルスへと変えているキキョンツェルに問いかけました。

「ハハンッ、白蘭様今日から此処に貴方の場所はありませんよ?」
「え?」
「新婚生活に小姑は野暮と言うものですから」

窓辺へと近付いたキキョンツェルは、今まさに魔法使いが掴んでいる縄梯子をブチリと切り落としました。
魔法使いが最後に見たキキョンツェルは、とても綺麗に微笑んでいたそうです。

こうして、魔法使いを追い出したキキョンツェルは、塔の中へと引きずり込……招き入れた商人と末永く暮らしました。



キキョンツェル
「俺の自由意思はどこ行ったんだバーロー」
「ハハンッ、至れり尽くせりの生活の何処が不満ですか?」


元ネタ 『ラプンツェル』

キャスト

ラプンツェル:桔梗
王子?:ザクロ
魔女:白蘭


end
(2010/08/13)
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