パロ系
……昔々あるところに、正一と言う青年がおり、白鶴に一方的な想いを寄せられていました。
そして、白鶴が恩返しと称し正一のもとへと押しかけて行くための手伝いをした雪女(男性ですが)は。
交換条件の一環として渡された羽団扇を眺めながら、クスリと笑いました。
「白蘭様も、何もこんな所で渡さなくてもよぉ」
白鶴の白蘭から、羽団扇を人間から取り返してきたと聞き、受け取り場所に指定されたのは雪山。
黒天狗のザクロは顔を顰めながら風を切っていきます。
羽団扇が戻ってくるのは喜ばしい事でしたが、天狗にとって雪山は鬼門に近かったのです。
山に住んでいるとは言え、雪が降れば空を思うように飛べず、羽の面積が大きい分余計に体温が奪われるからでした。
あと一つ、黒天狗のザクロにとって雪山を苦手とする理由は……
「ハハン、ザクロこちらですよ」
「……白蘭様はどこだ、桔梗」
「貴方の羽団扇でしたら私が白蘭様より預かりました」
微笑を向ける雪女の桔梗のもとに下りながらザクロは舌打ちをしたくなりました。
桔梗は雪山を苦手とする原因たる人物でした。
「とっとと返せバーロー」
「つれない方ですね、そんなに雪山が嫌いですか?」
「自分がやった事を振り返っても言える言葉か?」
ため息をつき憂い気に言う桔梗。
ザクロは桔梗にやられた数々の所業を思い出しながら睨みました。
「ハハン、貴方が欲しかっただけですよ」
「理由になるかバーロォ! 風切羽切り落とそうとしたり、翼丸ごと凍らせようとしやがっただろ!」
「貴方がすぐに空へ戻ろうとするからです、私がこの地から離れられないことを知っているはずでしょう?」
「一生飛べなくしようとするテメーがよっぽどひでーだろ」
不機嫌そうに、今にも帰ってしまいそうなザクロに、ため息をついてから桔梗は羽団扇をザクロの目の前に出しました。
「バーロー、さっさとだしゃいいんだよ」
「ハハン、これが欲しければ私の家へと寄っていただけますか?」
羽団扇を受け取ろうとしたザクロから、スッと羽団扇を遠ざけた桔梗は微笑みながら提案をしました。
「……帰るぜバーロー」
「羽団扇を燃やしても構わないんですね?」
帰ることを宣言すれば容易に羽団扇を素直に差し出すという考えは、桔梗の脅迫により甘かったことを思い知らされました。
「ハハン、ただ私の家へと寄ってお茶を飲んで頂ければ結構ですから」
優しげに提案をしている様で、その実羽団扇を盾に取っている桔梗に。
ザクロは、おそらくここで帰ろうとすれば確実に羽団扇は燃やされることを理解しました。
「……茶を飲んだら羽団扇返せ」
「ええ、約束しますよ」
雪女の約束は絶対に守られるものなので、渋々桔梗の家へと行くことにしたのでした。
その後何事もなく、桔梗との会話を交えながらお茶を飲んだザクロは、飲み干した湯飲みを置き桔梗を見ました。
それが合図だったように桔梗は素直に羽団扇を差し出してきました。
「邪魔したなバーロー」
羽団扇を取り返し、ザクロは戸を開けましたが、外の天候を見て、無言で戸を閉め後ろを振り返りました。
「ハハンッ、暫く止みそうにありませんね」
「お前が降らせてんだろバーロォ!」
外は飛ぶことさえ困難な吹雪、誰が降らせているかは明白でした。
「もう少し居座るべきだという天からのお告げです」
「ぬけぬけとよく言えんなぁ」
「ハハン、何のことですか?」
飲み終わったはずの湯飲みにお茶を淹れながら微笑む桔梗に、ザクロは軽く殺意が芽生えそうでした。
出していた翼をたたみ、ドカリと胡坐をかいて座りました。
「これが飲み終わったら、外のやつ止ませろバーロー」
「ですから、天候は天のものであり、私一人でどうこうできるものではありません」
都合よく雪が降るはずはないにもかかわらず、そ知らぬふりをする桔梗をザクロは睨みました。
「雪女のくせによく言えんな」
「ハハン、女ではありませんから、雪女と言う表現は違いますよ」
「じゃあ雪男か」
「あんな毛むくじゃらと一緒にしないでください」
嫌味を籠めて言った言葉は軽く流され、ただの言葉遊びのように一見楽しげな会話になりましたが。
桔梗に外の雪を止める意思が無いことは明白でした。
「桔梗、いい加減に雪を降らせんな」
「貴方が帰ろうとするのなら、一生雪を降らせます」
「脅迫かバーロー」
「ハハン、ただ約束をしていただければ良いだけですよ」
「氷付けになれってか?」
ゆるやかに微笑む桔梗を警戒しながら、ザクロは真意をはかりかねました。
「ザクロ、もう一度空へと戻りたいと思うのならば、私のものになりなさい」
「バーロォ、テメーのもんになったら、どーせ空に戻れなくなんだろ」
「ハハン、少し言い方を間違えてしまいましたね。私のもとへ帰る事を約束していただければ、貴方が空へ行くことを許可します」
「主導権はお前が握ってる言い方だな」
「実際に握っていますよ、貴方は外へは行けませんから」
凍てつく様な空気を漂わせながら、桔梗はザクロへと近づきました。
「それとも、空に戻る手段さえ潰してしまいましょうか?」
そうすれば、貴方は完全に私のものになりますね、とうっとりとしながら呟いた桔梗は、もう一度ザクロへと問いかけました。
「ザクロ、どうしますか? 私のもとへ帰る事を約束し空へと戻るか、約束をせずその翼を切り落とされ、空へと戻ることさえできなくなるか」
「どっちにしろ、お前のものになるのが前提かバーロー」
「ええ、そうですよ?」
悪びれもせずに言う桔梗に、のこのこと桔梗のもとへと来た自分が間抜けだったと、ザクロは舌打ちをしました。
雪山で、桔梗にかなう訳がなかったのです。
「……いいぜバーロー、お前のもんになってやる」
「ハハン、では、約束どおり貴方が空へ行くことを許可しましょう」
桔梗が言葉にするのと同時に、外の吹雪は嘘のように消えていました。
戸を開け、二度と来るものか、と空へと飛ぼうとした時、後ろから桔梗が声をかけてきました。
「ザクロ、約束を違えた時はどうなるか、わかっていますね?」
脅迫以外の何ものでもない言葉をサラリと言う桔梗に、約束を違えた時の雪女ほど怖いものは無いと聞いていたザクロは。
捕まってしまった以上、仕方のないことだと諦めました。
雪女との約束
強制的な契約
元ネタ 『雪女』+『天狗の羽団扇』
キャスト
雪女:桔梗
天狗:ザクロ
end
(2010/05/31)
そして、白鶴が恩返しと称し正一のもとへと押しかけて行くための手伝いをした雪女(男性ですが)は。
交換条件の一環として渡された羽団扇を眺めながら、クスリと笑いました。
「白蘭様も、何もこんな所で渡さなくてもよぉ」
白鶴の白蘭から、羽団扇を人間から取り返してきたと聞き、受け取り場所に指定されたのは雪山。
黒天狗のザクロは顔を顰めながら風を切っていきます。
羽団扇が戻ってくるのは喜ばしい事でしたが、天狗にとって雪山は鬼門に近かったのです。
山に住んでいるとは言え、雪が降れば空を思うように飛べず、羽の面積が大きい分余計に体温が奪われるからでした。
あと一つ、黒天狗のザクロにとって雪山を苦手とする理由は……
「ハハン、ザクロこちらですよ」
「……白蘭様はどこだ、桔梗」
「貴方の羽団扇でしたら私が白蘭様より預かりました」
微笑を向ける雪女の桔梗のもとに下りながらザクロは舌打ちをしたくなりました。
桔梗は雪山を苦手とする原因たる人物でした。
「とっとと返せバーロー」
「つれない方ですね、そんなに雪山が嫌いですか?」
「自分がやった事を振り返っても言える言葉か?」
ため息をつき憂い気に言う桔梗。
ザクロは桔梗にやられた数々の所業を思い出しながら睨みました。
「ハハン、貴方が欲しかっただけですよ」
「理由になるかバーロォ! 風切羽切り落とそうとしたり、翼丸ごと凍らせようとしやがっただろ!」
「貴方がすぐに空へ戻ろうとするからです、私がこの地から離れられないことを知っているはずでしょう?」
「一生飛べなくしようとするテメーがよっぽどひでーだろ」
不機嫌そうに、今にも帰ってしまいそうなザクロに、ため息をついてから桔梗は羽団扇をザクロの目の前に出しました。
「バーロー、さっさとだしゃいいんだよ」
「ハハン、これが欲しければ私の家へと寄っていただけますか?」
羽団扇を受け取ろうとしたザクロから、スッと羽団扇を遠ざけた桔梗は微笑みながら提案をしました。
「……帰るぜバーロー」
「羽団扇を燃やしても構わないんですね?」
帰ることを宣言すれば容易に羽団扇を素直に差し出すという考えは、桔梗の脅迫により甘かったことを思い知らされました。
「ハハン、ただ私の家へと寄ってお茶を飲んで頂ければ結構ですから」
優しげに提案をしている様で、その実羽団扇を盾に取っている桔梗に。
ザクロは、おそらくここで帰ろうとすれば確実に羽団扇は燃やされることを理解しました。
「……茶を飲んだら羽団扇返せ」
「ええ、約束しますよ」
雪女の約束は絶対に守られるものなので、渋々桔梗の家へと行くことにしたのでした。
その後何事もなく、桔梗との会話を交えながらお茶を飲んだザクロは、飲み干した湯飲みを置き桔梗を見ました。
それが合図だったように桔梗は素直に羽団扇を差し出してきました。
「邪魔したなバーロー」
羽団扇を取り返し、ザクロは戸を開けましたが、外の天候を見て、無言で戸を閉め後ろを振り返りました。
「ハハンッ、暫く止みそうにありませんね」
「お前が降らせてんだろバーロォ!」
外は飛ぶことさえ困難な吹雪、誰が降らせているかは明白でした。
「もう少し居座るべきだという天からのお告げです」
「ぬけぬけとよく言えんなぁ」
「ハハン、何のことですか?」
飲み終わったはずの湯飲みにお茶を淹れながら微笑む桔梗に、ザクロは軽く殺意が芽生えそうでした。
出していた翼をたたみ、ドカリと胡坐をかいて座りました。
「これが飲み終わったら、外のやつ止ませろバーロー」
「ですから、天候は天のものであり、私一人でどうこうできるものではありません」
都合よく雪が降るはずはないにもかかわらず、そ知らぬふりをする桔梗をザクロは睨みました。
「雪女のくせによく言えんな」
「ハハン、女ではありませんから、雪女と言う表現は違いますよ」
「じゃあ雪男か」
「あんな毛むくじゃらと一緒にしないでください」
嫌味を籠めて言った言葉は軽く流され、ただの言葉遊びのように一見楽しげな会話になりましたが。
桔梗に外の雪を止める意思が無いことは明白でした。
「桔梗、いい加減に雪を降らせんな」
「貴方が帰ろうとするのなら、一生雪を降らせます」
「脅迫かバーロー」
「ハハン、ただ約束をしていただければ良いだけですよ」
「氷付けになれってか?」
ゆるやかに微笑む桔梗を警戒しながら、ザクロは真意をはかりかねました。
「ザクロ、もう一度空へと戻りたいと思うのならば、私のものになりなさい」
「バーロォ、テメーのもんになったら、どーせ空に戻れなくなんだろ」
「ハハン、少し言い方を間違えてしまいましたね。私のもとへ帰る事を約束していただければ、貴方が空へ行くことを許可します」
「主導権はお前が握ってる言い方だな」
「実際に握っていますよ、貴方は外へは行けませんから」
凍てつく様な空気を漂わせながら、桔梗はザクロへと近づきました。
「それとも、空に戻る手段さえ潰してしまいましょうか?」
そうすれば、貴方は完全に私のものになりますね、とうっとりとしながら呟いた桔梗は、もう一度ザクロへと問いかけました。
「ザクロ、どうしますか? 私のもとへ帰る事を約束し空へと戻るか、約束をせずその翼を切り落とされ、空へと戻ることさえできなくなるか」
「どっちにしろ、お前のものになるのが前提かバーロー」
「ええ、そうですよ?」
悪びれもせずに言う桔梗に、のこのこと桔梗のもとへと来た自分が間抜けだったと、ザクロは舌打ちをしました。
雪山で、桔梗にかなう訳がなかったのです。
「……いいぜバーロー、お前のもんになってやる」
「ハハン、では、約束どおり貴方が空へ行くことを許可しましょう」
桔梗が言葉にするのと同時に、外の吹雪は嘘のように消えていました。
戸を開け、二度と来るものか、と空へと飛ぼうとした時、後ろから桔梗が声をかけてきました。
「ザクロ、約束を違えた時はどうなるか、わかっていますね?」
脅迫以外の何ものでもない言葉をサラリと言う桔梗に、約束を違えた時の雪女ほど怖いものは無いと聞いていたザクロは。
捕まってしまった以上、仕方のないことだと諦めました。
雪女との約束
強制的な契約
元ネタ 『雪女』+『天狗の羽団扇』
キャスト
雪女:桔梗
天狗:ザクロ
end
(2010/05/31)