パロ系
……昔々あるところに、正一と言う青年がおりました。
とある雪の日の朝、一羽の白鶴を助けた正一は、そのことをすっかり忘れ、平和な日々を過ごしていました。
「桔梗チャン、これで完璧かな?」
――白鶴のはた迷惑な想いを除いて。
「ハハン、白蘭様、少し落ち着いてください、あまり先を急ぎますと不振に思われてしまいますよ」
ゆったりと話す雪女(男性ですが)の前で、人間へと化けた白鶴は助けられたと言う口実を作れたことを喜んでいました。
「早く正チャンの所へ行こうかな? 恩返しってすごくいい口実だよね?」
恩返しと称し押しかける気が満々の白鶴。
すばらしく一途な想いゆえの行動でした。
「正チャンの所で暮らせるなんて夢見たいだなー」
恩返しを理由に押しかけようとしている時点で不純な気もしますが、愛ゆえだと白鶴は息巻いています。
「白蘭様、暮らせるかどうかは、あくまで正一と言う人物に気に入られるかがかかっていますよ?」
「大丈夫、ちゃんと正チャンの好きなことも把握してるよ」
だてに何ヶ月も正一の近くをストーキングと言う名の観察を欠かしてはいません。
「それでね桔梗チャン、もう一回雪お願いね?」
「ハハン、承りました……白蘭様、そのかわり」
「うん、分かってるよ、ザクロ君をちゃんと桔梗チャンの所まで来るようにさせるから」
「ありがとうございます」
ニッコリと笑い合いながら、そこはかとなく黒い約束は成立したのでした。
そして、ついに白鶴は正一の所へと行ったのでした。
約束通りに雪が降る中、逸る気持ちを落ち着かせ、白鶴は木製の引き戸をノックしました。
しばらく待っていると、家の中の人物が走ってくる音が聞こえ、スッと戸が開きました。
「どちら様ですか?」
「正チャン、一晩泊めてもらえな……」
ピシャリと閉められた戸によって、続く言葉は消されました。
「えっ、正チャン? あけてよ!」
「絶対にいやです! 不審人物は入れない事にしているんで!!」
ガタガタと戸を一方では開けようとし、一方では全力で閉じようとしています。
その様子はまるで、強引な押売りと断ろうとしている住人のようでした。
「どこが不審人物なの!?」
「第一に、この雪の中何も持たずに人の家の前に立っていたこと! 第二に、僕の名前を初対面のはずなのに知っていて、なおかつチャン付けで呼んだこと! と、言うか全部です、全てです! 貴方を構成しているもの全てが不審人物そのものです!!」
「ひ、ひどい……」
早口で捲くし立てるように全否定された白鶴は、ガックリと落ち込みました。
しかし、白鶴に落ち込んでいる暇はありませんでした。
一段と降る雪は、風も加わり吹雪へと変わってきていたのでした。
「え、桔梗チャン、やり過ぎじゃないの……?」
中の正一には聞こえない程度の小声でポソリと呟いた白鶴。
確かに雪を降らせて欲しいとは頼みましたが、吹雪は頼んでいません。
「正チャン、あけて! 凍え死んじゃいそうだから!」
予想外の吹雪に、本気で生命の危機を感じ取った白鶴は、必死に戸を叩きます。
戸を叩く白鶴の声に、さすがに自分の家の前で凍死者が出るのはまずいかな、と理性の働いた正一は、静かに戸を開けました。
「……入ってください」
渋々開けた正一とは逆に、白鶴は満面の笑みで中に入りました。
「いいですか、そこの障子から此方へは、夜は絶対入らないでください」
「……えっ、それこっちの台詞だったような」
不審者、と言うより、失礼ながら頭が少しあれな人だと決め付けた正一は。
泊める事を許可しましたが、念のため釘を刺すことを忘れませんでした。
何となくセオリー的に、夜なべをして何か作るつもりだった白鶴は、先に言葉を取られた形になりました。
釘を刺された白鶴でしたが、憧れの正一との一つ屋根の下と言う状況に。
寝顔くらいなら、とその夜そっと障子を開けてしまったのでした。
次の朝、正一は猛然と白鶴に詰め寄りました。
「障子に挟んでいた紙が落ちているのが証拠です! 貴方はそこの障子を開けましたね!」
「正チャンひどい! ただ寝顔見ただけだよ!!」
「それがすでに約束を破っているんです! 出て行ってください!」
「う……正チャンなんか、正チャンなんか……大好きだー!」
「言ってる言葉違いませんか!?」
ダッと外へと叫びながら走り出して行った白鶴へのツッコミを入れてしまった正一は。
さすがに、頭があれな人に厳しすぎたかと慌てて玄関へと向かい、外を見ました。
「あれ……白蘭さ……」
外には、数歩分の足跡しか雪の上に残っておらず、まるで掻き消えたかのように人影はありませんでした。
「…………そんな」
呆然としていると、空から白い物が落ちてきました。
「うわっ……えっ、紙? ……どこから?」
疑問に思いながら白い紙を見ると、書かれていた言葉は一言。
『すぐにもどります』
「……帰ってこなくていいです」
紙を折りたたみながら、何となく心配をして損をした気分になった正一でした。
「正チャンたら、あんなに必死に僕を求めてくれてたんだ」
ホクホクと白い紙を落とした白鶴は、空を飛びながら暫くの間、必死な正一の顔を思い出して余韻に浸っていました。
「白蘭様!」
「あれ、ザクロ君?」
下からの声に視線を向けると、憤慨している人物がいました。
静かに下へと降り立った白鶴は、ニッコリと笑いかけました。
「どうしたの、ザクロ君?」
「白蘭様、桔梗と取引しましたね」
「んー、ばれちゃった?」
「おかげさまで、桔梗のものになりました」
白鶴の、のんきな対応に若干の殺意が籠もった声で紅い人物は言いました。
不機嫌そうな様子に、誤魔化すように白鶴は笑いかけました。
「でも、約束守ってる限り、桔梗チャンは優しいでしょ?」
「……まあ、そうですけど」
否定しきれない様に呟くのを聞き白鶴は、なるべく穏便にすむように言葉を選びました。
「雪女って愛情深いものだよね、桔梗チャンは男だけど」
「白蘭様、後で覚えておいてください」
「正チャンとの明るい未来のために、忘れてザクロ君」
誤魔化しきれなかった白鶴は、恨みがましく睨んでくる紅い人物が早く忘れてくれることを願いました。
白鶴の想い
はた迷惑としか言いようがなく
元ネタ 『鶴女房』+『雪女』
キャスト
鶴:白蘭
青年:正一
雪女:桔梗
樵:ザクロ
end
(2010/05/30)
とある雪の日の朝、一羽の白鶴を助けた正一は、そのことをすっかり忘れ、平和な日々を過ごしていました。
「桔梗チャン、これで完璧かな?」
――白鶴のはた迷惑な想いを除いて。
「ハハン、白蘭様、少し落ち着いてください、あまり先を急ぎますと不振に思われてしまいますよ」
ゆったりと話す雪女(男性ですが)の前で、人間へと化けた白鶴は助けられたと言う口実を作れたことを喜んでいました。
「早く正チャンの所へ行こうかな? 恩返しってすごくいい口実だよね?」
恩返しと称し押しかける気が満々の白鶴。
すばらしく一途な想いゆえの行動でした。
「正チャンの所で暮らせるなんて夢見たいだなー」
恩返しを理由に押しかけようとしている時点で不純な気もしますが、愛ゆえだと白鶴は息巻いています。
「白蘭様、暮らせるかどうかは、あくまで正一と言う人物に気に入られるかがかかっていますよ?」
「大丈夫、ちゃんと正チャンの好きなことも把握してるよ」
だてに何ヶ月も正一の近くをストーキングと言う名の観察を欠かしてはいません。
「それでね桔梗チャン、もう一回雪お願いね?」
「ハハン、承りました……白蘭様、そのかわり」
「うん、分かってるよ、ザクロ君をちゃんと桔梗チャンの所まで来るようにさせるから」
「ありがとうございます」
ニッコリと笑い合いながら、そこはかとなく黒い約束は成立したのでした。
そして、ついに白鶴は正一の所へと行ったのでした。
約束通りに雪が降る中、逸る気持ちを落ち着かせ、白鶴は木製の引き戸をノックしました。
しばらく待っていると、家の中の人物が走ってくる音が聞こえ、スッと戸が開きました。
「どちら様ですか?」
「正チャン、一晩泊めてもらえな……」
ピシャリと閉められた戸によって、続く言葉は消されました。
「えっ、正チャン? あけてよ!」
「絶対にいやです! 不審人物は入れない事にしているんで!!」
ガタガタと戸を一方では開けようとし、一方では全力で閉じようとしています。
その様子はまるで、強引な押売りと断ろうとしている住人のようでした。
「どこが不審人物なの!?」
「第一に、この雪の中何も持たずに人の家の前に立っていたこと! 第二に、僕の名前を初対面のはずなのに知っていて、なおかつチャン付けで呼んだこと! と、言うか全部です、全てです! 貴方を構成しているもの全てが不審人物そのものです!!」
「ひ、ひどい……」
早口で捲くし立てるように全否定された白鶴は、ガックリと落ち込みました。
しかし、白鶴に落ち込んでいる暇はありませんでした。
一段と降る雪は、風も加わり吹雪へと変わってきていたのでした。
「え、桔梗チャン、やり過ぎじゃないの……?」
中の正一には聞こえない程度の小声でポソリと呟いた白鶴。
確かに雪を降らせて欲しいとは頼みましたが、吹雪は頼んでいません。
「正チャン、あけて! 凍え死んじゃいそうだから!」
予想外の吹雪に、本気で生命の危機を感じ取った白鶴は、必死に戸を叩きます。
戸を叩く白鶴の声に、さすがに自分の家の前で凍死者が出るのはまずいかな、と理性の働いた正一は、静かに戸を開けました。
「……入ってください」
渋々開けた正一とは逆に、白鶴は満面の笑みで中に入りました。
「いいですか、そこの障子から此方へは、夜は絶対入らないでください」
「……えっ、それこっちの台詞だったような」
不審者、と言うより、失礼ながら頭が少しあれな人だと決め付けた正一は。
泊める事を許可しましたが、念のため釘を刺すことを忘れませんでした。
何となくセオリー的に、夜なべをして何か作るつもりだった白鶴は、先に言葉を取られた形になりました。
釘を刺された白鶴でしたが、憧れの正一との一つ屋根の下と言う状況に。
寝顔くらいなら、とその夜そっと障子を開けてしまったのでした。
次の朝、正一は猛然と白鶴に詰め寄りました。
「障子に挟んでいた紙が落ちているのが証拠です! 貴方はそこの障子を開けましたね!」
「正チャンひどい! ただ寝顔見ただけだよ!!」
「それがすでに約束を破っているんです! 出て行ってください!」
「う……正チャンなんか、正チャンなんか……大好きだー!」
「言ってる言葉違いませんか!?」
ダッと外へと叫びながら走り出して行った白鶴へのツッコミを入れてしまった正一は。
さすがに、頭があれな人に厳しすぎたかと慌てて玄関へと向かい、外を見ました。
「あれ……白蘭さ……」
外には、数歩分の足跡しか雪の上に残っておらず、まるで掻き消えたかのように人影はありませんでした。
「…………そんな」
呆然としていると、空から白い物が落ちてきました。
「うわっ……えっ、紙? ……どこから?」
疑問に思いながら白い紙を見ると、書かれていた言葉は一言。
『すぐにもどります』
「……帰ってこなくていいです」
紙を折りたたみながら、何となく心配をして損をした気分になった正一でした。
「正チャンたら、あんなに必死に僕を求めてくれてたんだ」
ホクホクと白い紙を落とした白鶴は、空を飛びながら暫くの間、必死な正一の顔を思い出して余韻に浸っていました。
「白蘭様!」
「あれ、ザクロ君?」
下からの声に視線を向けると、憤慨している人物がいました。
静かに下へと降り立った白鶴は、ニッコリと笑いかけました。
「どうしたの、ザクロ君?」
「白蘭様、桔梗と取引しましたね」
「んー、ばれちゃった?」
「おかげさまで、桔梗のものになりました」
白鶴の、のんきな対応に若干の殺意が籠もった声で紅い人物は言いました。
不機嫌そうな様子に、誤魔化すように白鶴は笑いかけました。
「でも、約束守ってる限り、桔梗チャンは優しいでしょ?」
「……まあ、そうですけど」
否定しきれない様に呟くのを聞き白鶴は、なるべく穏便にすむように言葉を選びました。
「雪女って愛情深いものだよね、桔梗チャンは男だけど」
「白蘭様、後で覚えておいてください」
「正チャンとの明るい未来のために、忘れてザクロ君」
誤魔化しきれなかった白鶴は、恨みがましく睨んでくる紅い人物が早く忘れてくれることを願いました。
白鶴の想い
はた迷惑としか言いようがなく
元ネタ 『鶴女房』+『雪女』
キャスト
鶴:白蘭
青年:正一
雪女:桔梗
樵:ザクロ
end
(2010/05/30)