その他

古風な木目調の扉を開け、γは店内を見渡した。
堅気ではない者が多い店内には一種独特の空気が漂っていた。
そんな中、目立つ髪色の目当ての人物を見つけ、軽い足取りで向かい、相手の隣へと座った。

「何で毎回俺の隣に来るんだバーロー」
「毎回空いてるからだな、他に理由がいるか?」

不機嫌そうな顔で睨む相手にγは笑みを浮かべて返答をした。
その不敵ともとれる態度が気に入らなかったのか相手は外方を向くように顔を逸らせた。

挨拶のような毎回の遣り取りに笑い出しそうになりながら、相手の飲んでいる物をγは眺めた。
カウンターに置いてある相手のグラスを手に取り、軽く口を付けた。

「こりゃまた強いやつを飲んでるな」

舌を焼くような感覚に感想を付けると、グラスを取られた事に虚を衝かれた相手が振り返ってきた。

「バーロォ、人のを盗るんじゃねぇ」
「じゃあ詫びに奢らせてくれるか?」

決まり文句のようになった台詞を言えば、相手はそれほど怒った様子もなく、勝手にしろと投げ槍に答えた。

「今日はまた変わった服だな」

勝手に取った琥珀色の酒を続けて飲みながら、γは何気なく質問した。
黒服の相手は新しく注文した酒に口を付ける途中でグラスを離し、不思議そうに訊いてきた。

「そこまで可笑しくねぇだろ?」
「いや、少し珍しいって意味だ。特にその肩掛けが」
「バーロォ、これがか?」

自分の肩に掛かっていた白布を、眉を寄せながら摘み上げる相手。
話を繋ぎながらその布に刺繍されている模様をさりげなく眺め、γはその模様が何処のファミリーの紋章だったかと考えた。

初めて会った時からいやに引っかかる印象の相手だった。
堅気には見えないが、裏の世界の住人にしてはやけに空気が違った。
見たことの無い紋章を稀につけてくる相手に興味を持ったのはいつだったのか、覚えてはいない。
ただ、それとなく付き合い始め分かった事は、相手が不器用な性格だと言う事だけだった。

何処のファミリーかと考えても答えが出ないのなら、詮無い事かと思い考えを止めた。
敵対する可能性のあるファミリーでさえなければ良い、そう思いながらγは相手との会話を暫く楽しむ事にした。
ほろ酔い程度の酒を飲み、グラスが空になったところで隣へ座っている相手へと声をかけた。

「じゃあまたな?」
「……知るかバーロォ」

返された言葉と表情の差に、素直じゃないなと苦笑しながらγは出口へと向かった。



指定席
同じ時間、同じ場所に来る相手


end
(2010/12/19)
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