桔ザク 2

扉を少しだけ開けながら、ブルーベルとデイジーは廊下を覗いていた。

「ブルーベル……やっぱりやめようよぉ」
「ニュ、なんでよ? さっきまでデイジーもやるっていってたじゃない!」
「だって桔梗が、寝てないとサンタは来ないって」
「ふん、そんなのサンタの顔がばれない様にするためだけでしょ?」
「でも……」

煮え切らないデイジーの様子にイライラとしながらブルーベルは振り返った。

「そんなに言うならデイジーは寝てれば? サンタの顔はブルーベルだけが見るわよ」
「ぼばっ……僕チンも気になるには気になるんだけど……」
「ニュ~ッ、どっちかにしなさいよ!!」

怒鳴りつけるもその声は極力音量を下げた声だった。
ヒソヒソとした会話を続けるブルーベルとデイジーは、時刻が深夜に差し掛かってもベッドへと戻る気はまったくなかった。

「ブルーベル……サンタってたしか良い子の所にしか来なかった気がするんだけど?」
「なに? ブルーベルが良い子じゃないって言いたいの?」

不機嫌そうに聞き返すブルーベルに、言葉に詰まりながらデイジーは呟いた。

「……夜に寝てないのは悪い子な気がするけど……悪い子の所には黒サンタクロースが来るって桔梗が……」
「ニュ? なによ黒サンタクロースって?」
「悪い子の所へ来るサンタクロースなんだって……プレゼントの代わりに子供を連れてくん……」

不自然に止まったデイジーの言葉に、振り返っていたブルーベルはデイジーの視線の先を追った。
扉の隙間から見えるのは太った赤服の人物ではなく、細身の黒フードの――

「デイジーが言うから黒サンタが来ちゃったじゃない!?」
「ぼ、僕チンのせいなの……?」
「とにかく戻るわよ!」
「ぼばっ…!?」

デイジーの首根っこを掴み、ブルーベルは扉の近くから早々に逃げ出した。


扉の近くで立ち止まっていた黒フードの人物は、向かいから来る相手に呆れた様子で口を開いた。

「バーロー、まだ起きてやがったのか」
「ハハンッ、お疲れ様です、ザクロ」

フードをとり、ザクロはため息をつきながら桔梗へと訊いた。

「何時だと思ってんだよ?」
「クリスマスまで帰って来ないと言い残し行ってしまった薄情な恋人を待っていました」
「何が薄情だバーロー、テメーの方が平然と帰ってこねーだ……」

言っている途中で笑顔へと変わり始める桔梗の表情に言葉を止めたザクロ。
自分の口から出た言葉を反芻し絶句した。

「ハハン、次からはいつ帰るのかを付け加えておきますよ?」
「ッ!!」

そんな積もりではないと怒鳴りたかったが、寝静まった深夜に大声を出すのは憚れる。
渋々怒りを抑えながら、桔梗が持っている物へと視線を移した。

「何だよその箱はよぉ?」
「ブルーベルとデイジーに、ですよ。今日はクリスマスですから」
「ほー、そうかバーロー。ご苦労な事だな」
「子供の夢は壊さないものですよ?」

扉の前へとプレゼントを置いた桔梗は、ザクロへと近づき抱き寄せた。

「何だバーロォ?」
「貴方を持ち帰ってもよろしいですか?」
「服装の役柄的に逆じゃねぇか?」
「細かい事は気にしないものですよ」
「いや、細かくねーだろバーロー……」



逆サンタクロース
些細な事は気にしない聖夜?


end
(2010/12/25)
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