かむあぶ

慰安旅行、と称し日頃の功労を称え、春雨では団長格とその下に仕える部下(数名)が貸し切りのとある星へと呼ばれる。


「で、何で第四、第七、第八の飛び飛びで来てるんだ?」


此処は普通、連番で来るべきだろ、と言いたげに華陀を見る勾狼。
暑苦しいけむくじゃらの相手を見据えながら、華陀は涼しげに言い放った。

「仕方なかろう、2010年07月末現在、本誌ネタバレ含め、第七師団以外の団長で分かっておるのがわしらしかいなかったのじゃ」
「オイッ!? それ誰視てn「もっとも、わしとしては敵が少ないに越したことは無いと思っておるが」

バッサリと勾狼の言葉を遮った華陀は、特大日傘を部下にもたせ、その下で孔雀扇をあおいだ。
何が哀しくてこんな暑い、見るものと言ったら海ぐらいしかない星へと来るものかと、如実に顔に出ていた。
それでも来た理由は、春雨十二師団内で争奪戦の的となっている兎が来ているからである。

水面下で行われる争奪戦、力ずくで手に入れたい者が多くいる中で、忌ま忌ましくも現在君臨する勝者は、その兎が仕える第七師団団長。
春雨の雷槍と謡われる第七師団長、神威。華奢そうな外見と反比例するかのように、その強さは化け物並だった。

その勝者たる神威は、太陽がサンサンと降り注ぐ中、いつも通りの服装に白いマントを羽織り、番傘で日光を遮断して海辺に立っていた。
さらにその顔に日避けの包帯を巻き、見る者の体感温度を上げていた。


「綺麗だね」
「はぁ、そうですねぇ……」

神威の呟きにため息混じりで答えるのは、同じく普段と変わらない服装の阿伏兎。
春雨内において自分が争奪戦の的となり、さらに今現在第四、第八師団長から一心に視線を注がれている事を知らなかった。

「でも、夜兎に太陽光が降り注ぐ海辺に来いなんて、死ねって言ってるのかな?」
「さぁ、どうでしょうかね。ただの気の利いた慰安旅行だと考えた方が良いと思いますが」
「アホ提督も、もう少し考えた方が良いよね。星一つ貸し切るなら師団ごとに場所の割り当てを変えれば良いのに」
「少人数の為だけに貸し切っただけでも良心的といえるでしょうよ。その上さらに、を求めるのは酷だろ」

つらつらと話しながら、阿伏兎は流れる汗をぞんざいに拭った。
ジリジリと照り付ける太陽の下で長袖にマントは暑い。
死ねと言っているのと同じ、と言うのは大げさにしても、夜兎の習性上、服を脱ぎ日に肌を晒す訳にもいかないこの状況は、酷と言えば酷だった。

「夜になれば、まだましなのにね? 阿伏……兎?」

何気なく振り返った神威が見たのは、目眩に見舞われたようにしゃがみ込む阿伏兎の姿だった。

「何をやっとるんじゃ神威!」
「オィイイイ!? 何があったんだ!?」

いち早く走り寄ってきた華陀は、不思議そうに阿伏兎を見ている神威を怒鳴り付けた。
次に叫びながら、何があったのかと聞く勾狼。

「どうしたの阿伏兎?」
「馬鹿か貴様は! 熱中症に掛からせるまで海辺に立たせている者がおるか!」
「熱中症? 俺は何とも無いけど?」
「服装を考えんか! 貴様は白服じゃろ!」
「取り敢えず海の家まで俺が運んでやる!」

華陀が一方的に神威を怒鳴り付ける中、勾狼が率先して申し出た。
ところが、いざ阿伏兎に近寄り抱え上げようとした時、尋常ではない殺気が勾狼に突き刺さった。


「……何をしようとしてるのじゃ? 勾狼団長どの」
「まさか、俺の阿伏兎にその暑苦しい手で触ろうとしてる訳じゃ無いよね」

今しがたまで怒鳴っていた華陀は、孔雀扇に仕込んでいた刃を勾狼の喉元へと当て。
包帯の間から、凍り付くような冷たい眼を光らせる神威は、番傘の銃口を勾狼の頭へと当てた。

「ちょっ、待て!? 親切心からの行いで脅される覚えは無いぞ!」
「親切心? 下心の間違いだろ?」
「神威の言う通りじゃな、鼻の下が長い者は何を言っても説得力がないものよ」
「鼻の下が長いって、これは種族的なものだろ!?」

自分の顔に対してのダメだしに反論するが、当てられた得物は退けられることは無かった。

意識が朦朧としていた中、何故かは分からないが団長達が自分の近くで言い争っているので。
とばっちりを受ける前にと阿伏兎は体を引きずりながら海の家を目指した。



海辺にて
体調管理は徹底しようと何となしに思う。


end
(2010/07/29)
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