断片話

◆交換条件
(かむあぶ前提勾狼×阿伏兎)

差し出されるようにしなる体。
それを見て本能が刺激されても、此方は悪くないと勝手に決めつけ、その首に牙を突き立てた。

「ッ……勾狼の、旦那。それは約束違反だろ」
「ん? ああ、悪いなぁ!何しろ目の前に美味そうなものがあれば食いつかずにいられない性質でな!!」
「そうです、かい」

白い肌に付けた傷は見る間に塞がり、血がその周囲を濡らすだけだった。
おそらく、後ろ手に縛った手首の擦過傷も、縄を解いた途端に治っていくのだろう。
そして、何食わぬ顔で自分の仕える団長である神威へと会う。
気付かないとでも思っているのだろうか、目の前の相手は。
あの神威は間違いなく気付いている。でなければ、あれほど冷静で、その実腸の煮えくり返った目を此方に向けてくるはずがない。
もっとも、だからと言って差し出されるものを断りはしない。
それが例え、自団の団長のための行動だとしても、一向にかまわなかった。

「はァ……ーッだん」

その先に続く言葉は、自分の事か、最愛の者の敬称か。
十中八九、後者であろう言葉を呼ばせる前に、その口を塞いだ。


(2011/01/14)
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