小話

「阿伏兎ー、一緒にやろ」
「……船の中で、ですか?」
ヒクリと口元を引きつらせながら阿伏兎が言うと、花火を持っていた神威がケラケラと笑った。
「ちゃんと広い所でやるよ、始めは阿伏兎の部屋でやってたけど、煙でスプリンクラーが作動しちゃったから」
「ほー……それでこの騒ぎですか」
警報が鳴り響き、バタバタと団員達が火元確認にいそしむ中、
他人事のようにそれを眺める2人は、暫くの間ただ黙っていた。
「あ、そうだ、阿伏兎の部屋が水浸しになったから今日から俺の部屋で寝てね?」
「確信犯か、このすっとこどっこい」

花火
後始末まで責任を持ちましょう。


end


「阿ー伏ー兎ー、暑い」
「そう思うなら、引っ付かなければ良いと思いますがねぇ」
ペッタリと後ろからくっつきながらダレる神威を横目に、
ひたすら汗をぬぐう暇すらないとばかりに阿伏兎は書類に向かっていた。
「何か、かき氷的なの作って。できれば小豆とか白玉とかたっぷりのを」
「これから暑中見舞いも出さんといかん時に、よく言えますねぇ……」
「そんな事より早く作ってよ、あ、そうそう、練乳もたっぷりかけてね?」
ピキリと阿伏兎の額に立った青筋をグリグリと押しながら、一層注文をつけた神威。
我慢の限界だとばかりに阿伏兎は机を叩いて怒鳴りつけた。
「そんなに食いたきゃ、自分で氷に練乳でもかけて齧ってろ!」
「あっ、かき氷ができないなら阿伏兎に練乳かけて食べるからね?」
「……今すぐ作ってきます」

かき氷
特性宇治金時一丁


end


「阿伏兎、焼きそばとたこ焼きとお好み焼きと綿菓子が食べたいんだけど」
シャクシャクとかき氷を崩しながら食べる神威は、一心不乱に山積みのハガキへと向かっている阿伏兎へと注文をつけた。
「……何を言われようと行きませんよ」
食べ物から推測するに、どうせ地球へ行きたいとかだろ、と阿伏兎は呟いた。
「まだ何処とも言ってないのに。あ、でも、できれば地球の屋台で売ってるのが理想的かな?」
「行ってる暇があるわけないだろ、このすっとこどっこい」
額に青筋を立て言い返しながら、阿伏兎はハガキに走らせる筆を止めなかった。
そんな様子に、ピッとスプーンを向けてニッコリと神威は笑った。
「たかが暑中見舞い書き直しになっただけだろ?」
「あんたがかき氷用の練乳をぶちまけたからだろ」
「ソレはほら、阿伏兎が練乳まみれになるところが見たかっただけだよ」
「ほー、そうですか。理不尽にも仕事を増やす団長様のせいで、当分何処にも行けそうにありませんねぇ」
嫌味を籠めながら言う阿伏兎に、笑顔を絶やさず神威は返答した。
「不貞腐れるなよ、待っててあげるから」
「あんたの仕事だろ!」

お祭り
行けるかどうかは分かりません。


end


「凄い雷だね」
外を眺めていた神威が呟いた。
その言葉に、明日の日程を確認していた阿伏兎は神威と同じように外を見た。
「バケツの水をひっくり返したような雨ですねぇ」
「阿伏兎、俺達はいつまで宿にいないといけないの?」
「先方の出方しだいだろ」
「地上って天候一つで予定が崩れるね」
叩きつけるような雨の中、窓を開け放って見ている神威は暇そうだった。
「宇宙間の船同士の戦いなんてつまらない、と言っていたのは誰でしたか?」
「たしかに宇宙の方は予定は崩れないけど、白兵戦の方が楽しいだろ?」
「さようですか、ま、止むまでの辛抱でしょう、たぶん」

雷雨
止むまでは見物しかできない。


end
(2010/08/31)
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