小話

「きれいだね」
「……そうですねぇ」
傘を少しだけ傾け上を見上げる神威が言うと、
太陽を直視したらどうするつもりだ、と思いながら阿伏兎が答えた。
散り際の桜並木の中に立ちながら、なおも神威はニコニコと笑いながら続けた。
「薄紅色じゃなくて真っ赤だったら、血しぶきみたいでもっときれいなのにね?」
「身も蓋もない事を言うな、このすっとこどっこい……」

桜吹雪の中
一面の花弁を見て思うこと?


end


「よく寝てやがる……」
スヨスヨと眠る相手を見ながらため息が出た。
そして、おもむろに軽く拳を作り、そのピンク色の頭に振り下ろした。
「いたいなぁ、もう少し起こし方は無いの?」
「あいにくと人に仕事押し付けて寝てる奴を優しく起こす、
 なんて言う選択肢は無かったもので……と言うより、あんたは少し寝すぎだろ」
「ほら、寝る子は育つって言うだろ?」
ニッコリと笑顔で言う神威にまたため息が出た。
「あんたに関しては当てはまるとは思いませんがねぇ」
「細かいこと気にするなよ、ほら、早く来いよ阿伏兎」
「……この状況下でそれを言うか?ほとんどあんたの始末書なんですが」
「んー、じゃあ、それが終わったら添い寝して?」

春眠暁を覚えず
手伝うと言う選択肢はありません


end


「阿伏兎ー、包帯とってもいい?」
「アホか、こんなに日が出てる中でとろうとするな」
ただでさえあんたは無頓着になりがちだろ、と傘を差しながら愚痴る阿伏兎に、
ため息をついた神威は、少しだけ傘を傾けた。
「いい天気なのにね」
「夜兎にとっては嫌な天気だろ」
ほかほかとした、やわらかな日差し。
心地いいとさえ言える天気は、太陽の光を苦手とする夜兎にとっては、
あまり歓迎されるものではなかった。
「じゃ、早く帰ろうか、何か包帯してると蒸れそうでヤダから」
「はいはい」

日だまりの中
平穏ではない場所


end


「花を咲かせるのって楽しいね」
「頭にか?」
確かにピンク色の花が咲いてますねぇ、ピンク色の頭なだけに、
と皮肉を言う阿伏兎に構わず、神威はニッコリと笑った。
「阿伏兎の肌に、に決まってるだろ」
ガブリと歯形をつける神威に、何か違うだろ、と呆れた阿伏兎は、
とりあえず痛いので、首根っこを掴み引き離した。
「…………花か?」
「花だろ?あと四つつければ一つの花になるよ」
さも当然と言う神威に、やっぱり何か違うだろ、と頭を抱えたくなる阿伏兎だった。

花咲き乱れ
何か違う赤い花


end
(2010/05/31)
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