かむあぶ

気になる。

決して、それは自分が気になっている訳ではなく。
団長が、侍を気にかけている、と言う意味だ。
強い奴にしか興味が無い団長にとって、侍と言うものは、興味がそそられるらしい。
特に今、団長が気になっている人物は、鬼兵隊のトップ、高杉晋助。

もっとも、頭が切れそうで何を考えているのか分からない高杉と言う人物を、自分は相手にはしたくないと思った。


「よう、宇宙の喧嘩師の部下、だったか?」

ニヤリとキセル片手に優雅に問い掛ける人物を見て、顔を顰めてはいないだろうかと、自分の表情が気になった。

「……何か用ですかねぇ?」
「いや、別に……ただの興味ってやつだ」

片目でねめつけるように言われ、どう反応するべきかと一瞬考えてしまった。

「興味? そんなもの抱かれても、こちとら一般的な団長様に忠実な部下でしかないものですが?」

つまらないものに興味を抱いても、時間の無駄にしかならないと含めるが、目の前の人物は、喉の奥で笑うばかりだった。

「牙が無い訳でもない、それなのに突き立てる牙を持て余す上を優先する奴ってのが、気になっただけさ」
「牙? そんなものは端から持ち合わせていませんがねぇ」

苦手だ、目の前で探るような目を向けてくる人物が。
相手の狂気が伝染しそうで、不快だった。
破壊衝動に関しても、健康的な団長の方がまだ自分に合う。
いいしれぬ不快感、早くこの場から去りたかった。

「惚けるのも良いが、時には自分の牙でも磨けば、面白いことになると思うぜ?」

キセルをくわえ、唐突に話を打ち切った相手は、すぐ隣をすり抜けて行った。



「どうしたの、阿伏兎。ほうけた顔して?」

いつの間に近寄ったのか、いつものように笑みを絶やさない団長が見上げてきた。

「団長が気になっている奴と会いました」
「ふーん、嫉妬でもした?」
「いえ、ただ、団長の下に就いて良かったと思いましたよ」

純粋な破壊衝動。
両者にあるそれは、方向性が違えば、あそこまで狂気に染まるのかと思った。

「変な阿伏兎だね、まぁ、俺の方が良いって言うなら別にかまわないけどね」

行くよ、と促すように見上げてくる青い瞳を見て、あの不快感を感じない事に安心した。



紫煙の残る中
やはり、あの人物は苦手だと思った。


end
(2010/07/10)
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