かむあぶ
「わしが夜兎であったなら、どうする?」
「……それは、どういう意味でしょうかねぇ、第四師団団長様?」
「なに、ただの質問だ」
口元に笑みを湛え、気まぐれに思いついたかのように言えば、一瞬黙った後、第七師団団長に仕える男は返答してきた。
「そうですね。できれば貴方に仕えてみたいと思いますが」
「あの神威よりもか?」
「酷いお方ですねぇ。いつもあの団長の尻拭いに追われる身に言いますか? 貴方ほどのお方なら、夜兎になっても頭が切れ、そしてお強いでしょう」
「嬉しいものだ。そこまで褒められると」
賛辞を受け取り、目を細め、男を見上げた。
社交辞令……
男の言葉に本心は一欠けらも籠められていない。
もっとも、そんな事はわかっていた。
仮に、の話をしても虚しいだけ、なぜなら目の前の男は、誰よりも強い、青い瞳の兎しか見ていないのだから。
たかが頭が切れる程度の兎ではないものは、その目に映る事すらかなわない。
「……のう」
「何ですか、第四師団団長様?」
「神威に仕えるのが嫌になったら、わしの所に来るがよい。いつでも、わしは歓迎するぞ?」
不敵な笑みを浮かべ、冗談の色合いを濃くして言えば、男は微笑を浮かべて、その目を向けてきた。
「ええ、その時は是非とも貴方に仕えたいものです」
「つくづく、嘘つきな男よ」
思いのほか力を籠めて握っていた孔雀扇で口元を隠し、既に別れた男を思い口に出した言葉は、誰に聞かれる事もなく消えた。
分からないはずがない。
策略に長けた男が、言葉に隠された本心を、気付かないはずがない。
「叶うわけもない願いじゃな……」
できるなら、けむる色合いのあの目に、青い瞳の兎よりもなお強く……
目を向けられない花
どんなに希おうと、あの目は花を見ない。
end
(2010/07/01)
「……それは、どういう意味でしょうかねぇ、第四師団団長様?」
「なに、ただの質問だ」
口元に笑みを湛え、気まぐれに思いついたかのように言えば、一瞬黙った後、第七師団団長に仕える男は返答してきた。
「そうですね。できれば貴方に仕えてみたいと思いますが」
「あの神威よりもか?」
「酷いお方ですねぇ。いつもあの団長の尻拭いに追われる身に言いますか? 貴方ほどのお方なら、夜兎になっても頭が切れ、そしてお強いでしょう」
「嬉しいものだ。そこまで褒められると」
賛辞を受け取り、目を細め、男を見上げた。
社交辞令……
男の言葉に本心は一欠けらも籠められていない。
もっとも、そんな事はわかっていた。
仮に、の話をしても虚しいだけ、なぜなら目の前の男は、誰よりも強い、青い瞳の兎しか見ていないのだから。
たかが頭が切れる程度の兎ではないものは、その目に映る事すらかなわない。
「……のう」
「何ですか、第四師団団長様?」
「神威に仕えるのが嫌になったら、わしの所に来るがよい。いつでも、わしは歓迎するぞ?」
不敵な笑みを浮かべ、冗談の色合いを濃くして言えば、男は微笑を浮かべて、その目を向けてきた。
「ええ、その時は是非とも貴方に仕えたいものです」
「つくづく、嘘つきな男よ」
思いのほか力を籠めて握っていた孔雀扇で口元を隠し、既に別れた男を思い口に出した言葉は、誰に聞かれる事もなく消えた。
分からないはずがない。
策略に長けた男が、言葉に隠された本心を、気付かないはずがない。
「叶うわけもない願いじゃな……」
できるなら、けむる色合いのあの目に、青い瞳の兎よりもなお強く……
目を向けられない花
どんなに希おうと、あの目は花を見ない。
end
(2010/07/01)