かむあぶ

「月餅」
「は?」
「胡麻団子、かりんとう、杏仁豆腐、桃饅頭」

次々にお菓子の名前をつらつらと挙げていく神威を見ながら、腹でも減っているのかと考えた。

「……飯でも持ってきましょうか?」
「甘いやつが欲しいんだ」
「それはまた珍しい事で」

腹いっぱい食べられれば満足、とは少し違う要求に僅かに眉を寄せたが、団長がご所望ならば仕方ないと用意することにした。


「……食べないのか?」
「食べるよ?」

ニコニコと嬉しげに机いっぱいに並べられた菓子類を見ながら、神威は手をつけようとしなかった。
疑問に思いながらも用事は済んだとばかりに仕事に戻ろうとすれば、服をガシリと掴まれた。

「団長、まだ何か用がありますか?」
「一緒に食べよう、阿伏兎」
「はぁー……分かりましたよ」

ため息混じりに神威の隣へと座れば、まずは神威が散蓮華で杏仁豆腐をすくった。

「阿伏兎、はいあ~ん」
「…………すみません団長、それをどうしろと?」
「決まってるだろ、食べろ」

散蓮華を向ける神威に、顔を引きつらせながら問えば、バッサリと言い切られた。

「いやいや、おっさんにソレはきついから」
「阿伏兎、団長命令」

ニッコリと微笑まれ言われた言葉は残酷だった。
羞恥心に耐えながら口を開ければ、喉越しの良い杏仁豆腐が口の中へ入れられた。
これならば、まだフェイントの方が良かった。
次の胡麻団子に手をつけ、さらに口に運びそうな神威に、その手を掴み、阻止した。

「団長、逆でお願いします」
「えー、まっ、いいや、あー」

一瞬の不満そうな顔の後、ご機嫌で承諾をした神威は大口を開けた。
手短にあった桃饅頭を手に取り、その口へと押し付けた。

「ムグッ?」
「さて、十分に満足したな、団長」

ムゴムゴと何かを言いたげに、神威が口に埋まっている桃饅頭を勢いよく食べる様子を横目に、立ち上がった。


「ムゴッ……まってよ阿伏兎」

ゴクリと桃饅頭を飲み込んだ神威が、腕を掴んできた。

「団長、俺はあんたのままごとに付き合っている暇はない」
「恋人どうしならデートぐらいするものだろ?」
「でーと?」

何処をどうすれば、先程の行為からデートと言う単語が出るのかと思った。

「だって、デートって二人で甘いもの食べる事でしょ?」

何処の情報だと頭を抱えたくなったが、おそらく何処かのデートスポット特集でも見たのだろう。
食べれば良いと考えるあたり、やはり何処かが違う。

「……団長、デートってのは確かに食事も含みますがねぇ、基本二人で出かけに行くのがデートってもんだろ」

お家デートと言うものもあるが、それにしても出かける事の方が多いであろう。

「へー、じゃあ俺と阿伏兎ってよくデートしてたんだ」
「……何処をどうすればその結論にいくんですか」

今度は何だと、思考回路を疑いたくなった。


「だってほら、よく二人で出かけてるだろ?」


確かに二人で仕事で出かけてはいるが、それもまた違うだろうと、呆れて言う気にもなれなかった。



定義はあいまい
それにしても、少し解釈が違いすぎないか?


end
(2010/06/19)
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