かむあぶ

寒い、氷河期並みに寒い。
冗談抜きで寒すぎて死ぬのではないかと思うほど寒い。
歯の根が噛み合わずガチガチと音を出しそうなほどに、寒い。
普段つけているマントではどうしようもなく、その上に毛布をかけながら書類に向かい、何の罰ゲームだと阿伏兎は思った。


「息が白いな……」

手を温めるように息をかければ、その息が白くなった。
何故、こんな目にあわなくてはいけないのかと思えば、全ての原因は、空調を壊した神威にあると結論が出た。

「うわー、蓑虫?」
「……元気ですねぇ、団長」
「そんなに毛布被って暑くないの?」

笑いながら近づく神威は、普段と変わらず腕まくりをしたまま、マントすらつけていなかった。
その様子に、逆に寒くなってくる。

「なにぶん、この寒さの中普段どおりに行動できる団長とは違い、基礎体温が低いもんですから」
「ふーん、大変だねー」

少しも大変だと思っていない様子で、神威はケラケラと笑いながら言った。


「……団長、温めてもらえませんか」


静かに言い、ケラケラと笑っていた相手の腕を掴み、引き寄せると、笑い声が止まり軽く驚いたような顔があった。

「阿伏兎ー? 自分が何言ってるか分かってる?」
「温めてください、あんたの体で」
「……医療班呼んでくる?」

常日頃、他人を気にかけず自分本位なところがある神威にしては珍しく、気遣いと言うものを見せた。
もしくは、混乱していたのかもしれない。

「寒いんですよ、温めてもらえませんかねぇ?」

懇願するような視線と共に、ゾクリとするほど低音で投げかけられた誘い。
理性を揺るがせるどころではなく、そのままダイレクトに腰にきた。

「……いいよ。阿伏兎がねだるなんて珍しいね」

クスクスと笑いながら囁けば、それが合図だったように阿伏兎は掴んでいた腕を放し、神威の肩へと手を添えた。

「では、失礼します、団長」
「あり?」

肩を引き寄せられ、すっぽりと収まったのは阿伏兎の膝の上。
そのまま、神威を膝の上に座らせた阿伏兎はピッタリと体を寄せた。

「やっぱり、若い方が体温が高いですねぇ」

じんわりと接着面から熱が伝わってくるのを目を閉じながら阿伏兎は感じていた。


「……阿伏兎ー、もっと温めあう方法があるんだけど?」

そっちにしない、と問いかけるが、阿伏兎は聞いていなかった。
本当ならば、あの展開から行けば肌と肌を合わせるような行為に発展するべきじゃないかと不満に思った。

「肌を晒して、なおさら寒くなる気はないものですから」
「知っててやってるんだね」

確かに肌を晒せば寒くなるかもしれないが、別に布団の中でヤればいい話ではないのかと神威は言いかけた。
そんな神威の肩に顎を乗せて後ろから抱きしめていた阿伏兎は、喉の奥で笑うのを隠そうともしなかった。

「阿伏兎、何なら今すぐヤっちゃうぞ?」
「おやおや、恐ろしいですねぇ……まぁ、空調が直ったら肌を合わせて温めあう方法も考えないことはありませんが」
「それって、もう暖を取る必要ないよね」



考えなおす暇
与えなくても良いですか?


end
(2010/06/09)
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