かむあぶ
そわそわウキウキとしている様子を見て、ああ、そう言えばもうすぐだったと思い出し。
サプライズを考えるほど暇ではないので、即物的ではあるが、まあ喜ぶだろうと地球産の食い物をありったけ運ばせて。
当日にいたる。
「団長、第七師団員を代表し、お祝い申し上げます。と、言う訳で、一人で食べてください。くれぐれも、仕事に勤める団員の邪魔をしないようお願いします」
「阿伏兎は?」
「例に漏れず書類と格闘する所存ですが?」
「ふーん、そう」
大量の食料を前に、いつもならば喜びそうな所だが……
今日に限り、食欲でも無くなったのかと思うほどに乗り気ではない様子だった。
「ああ、サプライズを期待せんでくださいよ、そんな事やってる暇もないんで」
「わかった」
もそもそと食べ始める様子を見て、同情してはいけない。
実際に、ここ数日、上からのいじめかと思うほどの大量の仕事に、殺人的な忙しさであることは本当なのだから。
徹夜が何日目かと考えるのも恐ろしい。
団長には申し訳なく思うが、本当に今だけは祝っている暇も無い。
「……終わった」
ポトリとペンを机の上に落とし、山と積みあがった書類を前に、その場に横になった。
とにかく提出期限ぎりぎりの書類達の相手は終わった。
後は暫く休憩を取り、提出さえすれば安心して眠れる。
そう思い、しばしの間まどろんでいれば、ゆっくりとした足音と共に扉が開き、何かが伸し掛かってきた。
「団長……あんたの相手なら今日はできませんぜ」
薄っすらと目を開ければ、予想通りの人物が伸し掛かっていた。
口の端にクリームが付いている所を見ると、あらかた用意した物は食べ終わった後らしい。
「阿伏兎、あれだけじゃないよね?」
「……飯もケーキも食って満足しただろ」
「阿伏兎からのお祝いまだなんだけど?」
それなりに歳を重ねれば、誕生日などと言うものが多少蔑ろにされても気にしないだろうと言う見積もりは甘かったらしい。
ニコニコと満面の笑みで申し出る団長の何と恐ろしいことか……
と、冗談言っている場合でもない、この笑みは警報が鳴り響くほどにやばい。
しかし、悲しいかなようやく修羅場を乗り切ったと言う達成感により、眠気が襲ってきている体はろくに動かなかった。
「ねぇ、もう一回ちゃんとお祝いしてくれる?」
「……もう何も用意できないんですがねぇ」
「何か物を寄越すとかじゃないんだよ、阿伏兎」
俺はそんな形だけのやつは要らないんだ、と耳元で囁かれれば、身震いするほどに腰に響く声だと他人事のように認識した。
何をそんなに不満に思っているのかと考えれば……
言い忘れていた言葉を思い出した。
「誕生日、おめでとうございます……団長」
社交辞令ではない、二度目の祝福をすると、やけに嬉しそうな団長の顔があった。
「うん、ありがとう阿伏兎」
祝福の言葉
社交辞令と心を籠めたものの差。
end
(2010/06/01)
サプライズを考えるほど暇ではないので、即物的ではあるが、まあ喜ぶだろうと地球産の食い物をありったけ運ばせて。
当日にいたる。
「団長、第七師団員を代表し、お祝い申し上げます。と、言う訳で、一人で食べてください。くれぐれも、仕事に勤める団員の邪魔をしないようお願いします」
「阿伏兎は?」
「例に漏れず書類と格闘する所存ですが?」
「ふーん、そう」
大量の食料を前に、いつもならば喜びそうな所だが……
今日に限り、食欲でも無くなったのかと思うほどに乗り気ではない様子だった。
「ああ、サプライズを期待せんでくださいよ、そんな事やってる暇もないんで」
「わかった」
もそもそと食べ始める様子を見て、同情してはいけない。
実際に、ここ数日、上からのいじめかと思うほどの大量の仕事に、殺人的な忙しさであることは本当なのだから。
徹夜が何日目かと考えるのも恐ろしい。
団長には申し訳なく思うが、本当に今だけは祝っている暇も無い。
「……終わった」
ポトリとペンを机の上に落とし、山と積みあがった書類を前に、その場に横になった。
とにかく提出期限ぎりぎりの書類達の相手は終わった。
後は暫く休憩を取り、提出さえすれば安心して眠れる。
そう思い、しばしの間まどろんでいれば、ゆっくりとした足音と共に扉が開き、何かが伸し掛かってきた。
「団長……あんたの相手なら今日はできませんぜ」
薄っすらと目を開ければ、予想通りの人物が伸し掛かっていた。
口の端にクリームが付いている所を見ると、あらかた用意した物は食べ終わった後らしい。
「阿伏兎、あれだけじゃないよね?」
「……飯もケーキも食って満足しただろ」
「阿伏兎からのお祝いまだなんだけど?」
それなりに歳を重ねれば、誕生日などと言うものが多少蔑ろにされても気にしないだろうと言う見積もりは甘かったらしい。
ニコニコと満面の笑みで申し出る団長の何と恐ろしいことか……
と、冗談言っている場合でもない、この笑みは警報が鳴り響くほどにやばい。
しかし、悲しいかなようやく修羅場を乗り切ったと言う達成感により、眠気が襲ってきている体はろくに動かなかった。
「ねぇ、もう一回ちゃんとお祝いしてくれる?」
「……もう何も用意できないんですがねぇ」
「何か物を寄越すとかじゃないんだよ、阿伏兎」
俺はそんな形だけのやつは要らないんだ、と耳元で囁かれれば、身震いするほどに腰に響く声だと他人事のように認識した。
何をそんなに不満に思っているのかと考えれば……
言い忘れていた言葉を思い出した。
「誕生日、おめでとうございます……団長」
社交辞令ではない、二度目の祝福をすると、やけに嬉しそうな団長の顔があった。
「うん、ありがとう阿伏兎」
祝福の言葉
社交辞令と心を籠めたものの差。
end
(2010/06/01)