かむあぶ
並んで歩くのは珍しいことではない。
ただ二つほど違うのは、いつもは日傘として使う傘を、傘本来の用途として使い。
さして大きくは無い傘に二人で入っていることだけだった。
「早く帰ってお風呂にでも入りたいねー、あ、その前にご飯かな?」
「はいはい、無駄口を叩いているところすみませんが、歩調を合わせていただかないと大変に歩きにくいのですが?」
「阿伏兎、俺の肩半分濡れてるんだけど?」
「此方は肩半分どころか左半分ほど濡れてますよ」
阿伏兎の言葉は事実だった、対する神威はほぼ傘の中心におり、肩半分は言い過ぎだった。
「どうかした? 阿伏兎」
視線に気がついた神威が隣にいる阿伏兎へと問いかけると、視線を向けていた阿伏兎は、ため息をついてから丁重に答えた。
「いえ、何故御自分の傘を持っていらっしゃるのに、俺なんかの傘を間借りするのかが気になっただけですよ」
「言っただろ? 傘が少し壊れたって」
「ほー、そうですか、見たところ何処にも壊れた形跡が無いように感じますが?」
「阿伏兎ー、人を疑うって悲しい行為だと思わない?」
「ため息をつきながら哀れむように言っているところすみませんが団長。ことあんたに関しては、前科が片手で収まりきらないほどあるんですよ」
しーん、と前科何十犯とある神威は笑みを絶やさないまま沈黙を貫いた。
「聞いてんのか? このすっとこどっこい」
沈黙を何よりの証拠と、傘の内から蹴り出そうとした阿伏兎だったが。
その前に、神威がニッコリと、さながら天使のような笑顔で見上げてきた。
「阿伏兎、恋人と相合傘をするのって、そんなにいけないこと?」
「団長…………」
歩いていた足を止め、神威を見返した阿伏兎は……
ピキリと額に青筋を立てたまま、盛大に神威を蹴り出した。
「アリ? ここは感動する所じゃないの?」
「相合傘の条件は、借りる側が傘を持つものだとでも覚えとけ」
スタスタと早歩きで進んでいく阿伏兎を見ながら、残念そうにため息をついた神威は、服がびしょ濡れになる前に、自分の傘を差し阿伏兎を追いかけていった。
借り人の条件
「阿伏兎ー、待ってよ」
「やっぱり壊れてなかったな、このすっとこどっこい。よくもまあ、人を疑うのは悲しい行為だと言えたもんですねぇ」
end
(2010/05/26)
ただ二つほど違うのは、いつもは日傘として使う傘を、傘本来の用途として使い。
さして大きくは無い傘に二人で入っていることだけだった。
「早く帰ってお風呂にでも入りたいねー、あ、その前にご飯かな?」
「はいはい、無駄口を叩いているところすみませんが、歩調を合わせていただかないと大変に歩きにくいのですが?」
「阿伏兎、俺の肩半分濡れてるんだけど?」
「此方は肩半分どころか左半分ほど濡れてますよ」
阿伏兎の言葉は事実だった、対する神威はほぼ傘の中心におり、肩半分は言い過ぎだった。
「どうかした? 阿伏兎」
視線に気がついた神威が隣にいる阿伏兎へと問いかけると、視線を向けていた阿伏兎は、ため息をついてから丁重に答えた。
「いえ、何故御自分の傘を持っていらっしゃるのに、俺なんかの傘を間借りするのかが気になっただけですよ」
「言っただろ? 傘が少し壊れたって」
「ほー、そうですか、見たところ何処にも壊れた形跡が無いように感じますが?」
「阿伏兎ー、人を疑うって悲しい行為だと思わない?」
「ため息をつきながら哀れむように言っているところすみませんが団長。ことあんたに関しては、前科が片手で収まりきらないほどあるんですよ」
しーん、と前科何十犯とある神威は笑みを絶やさないまま沈黙を貫いた。
「聞いてんのか? このすっとこどっこい」
沈黙を何よりの証拠と、傘の内から蹴り出そうとした阿伏兎だったが。
その前に、神威がニッコリと、さながら天使のような笑顔で見上げてきた。
「阿伏兎、恋人と相合傘をするのって、そんなにいけないこと?」
「団長…………」
歩いていた足を止め、神威を見返した阿伏兎は……
ピキリと額に青筋を立てたまま、盛大に神威を蹴り出した。
「アリ? ここは感動する所じゃないの?」
「相合傘の条件は、借りる側が傘を持つものだとでも覚えとけ」
スタスタと早歩きで進んでいく阿伏兎を見ながら、残念そうにため息をついた神威は、服がびしょ濡れになる前に、自分の傘を差し阿伏兎を追いかけていった。
借り人の条件
「阿伏兎ー、待ってよ」
「やっぱり壊れてなかったな、このすっとこどっこい。よくもまあ、人を疑うのは悲しい行為だと言えたもんですねぇ」
end
(2010/05/26)