かむあぶ
「…………なんでいるネ?」
「いちゃ悪いかねぇ?」
神威と同じ青い目を軽く見開き、見上げてくる神楽を見下ろしながら。
何でよりにもよって会ったんだかねぇ、とかぶき町の路上で阿伏兎は内心愚痴った。
「バカ兄貴も一緒アルか?」
「いや……そのバカ兄貴こと団長を探しに来た」
フラフラと遠出するにしても、もう少し考えて欲しかったもんだ、とため息をつく様に呟く阿伏兎の言葉に、まさか、と神楽は眉を寄せ、キッと睨んだ。
「バカ兄貴が、銀ちゃんを殺しに来たアルか」
グッと傘の柄を握り、今にも戦闘態勢に入りそうな神楽を前に、まてまて、と阿伏兎は手で制した。
「警戒しているところ、多分に悪いが、団長は今回は侍よりも地球産の飯が目当てで来日したはずだ」
「ふん、ちゃんと手綱ぐらい握っとけヨ」
「手綱を握られてんのは、立場上こっちなんだがねぇ?」
ため息はついた分だけ幸せは逃げていく、と言う言葉をかけるまでもなく、阿伏兎は盛大にため息をつき、神楽に背を向け神威探しを再開させようと歩き出した。
「待つアル」
「ん? できれば布が伸びるんで掴むのを止めてもらえないかねぇ、嬢ちゃん」
日よけ用のマントを掴まれ、後ろ髪ではなく後ろ布を引かれた阿伏兎は、振り向き神楽を見下ろした。
「バカ兄貴が地球に来てるのを知ったせいで、私の気分が優れなくなったネ。慰謝料として昼ご飯作ってくヨロシ」
「勘弁してくれよ、嬢ちゃん」
盛大に呆れ、首を振った阿伏兎は、何故そんな理由で団長が楽しみにしている侍がいる場所なんぞに、行かなくてはいけないのかと訴えた。
「大丈夫ネ、銀ちゃんと新八は今日依頼が入って夜まで帰ってこないネ」
「嬢ちゃん……年頃の娘が知らない男と一つ屋根の下にいちゃいかんと言う言葉を教わらなかったのか?」
「知らない男じゃないネ、バカ兄貴の尻拭いしてる部下アル」
呆れ半分、説教半分に問う阿伏兎だったが、神楽の回答に、今度こそ神経を疑った。
「将来有望な夜兎は、揃いも揃って常識がないようで……」
オジさん、最近の若い子が受けた教育方針がよくわかんないねぇ、
と嘆く阿伏兎を無視して、神楽は阿伏兎のマントを引っ張りながら万事屋へと向かった。
「…………で、カレーを作れと」
「早く作るアル。たまねぎが黄金色になるまで炒めて、芋とか野菜がドロドロにルーに溶け込んだ田舎カレーしか認めないアル」
「あーもー、何でこうなったかねぇ、団長様を探す旅が一変して料理教室か?」
「四の五の言わず作れヨ、元はと言えばお前が私の前に出なければよかった話ネ」
「はいはい、口だけは達者なようですねぇ、最近の若い子は」
何でこうなったか、と嘆いても始まらず。
共食いをする気もさらさら無いので、穏便にカレーを作り始める阿伏兎だった。
ニンジン、ジャガイモを適当に切り、鍋に水と一緒に放り込んだ後。
注文どおり玉ねぎを黄金色になるまで炒め、カレールウを放り込み、文字通りドロドロになるまで煮込み。
時折カレーをかき混ぜていた阿伏兎は、そう言えば団長もこんなカレーが好きだったような、と遺伝と嗜好の関係をぼんやりと考えた。
「阿伏兎ーカレーまだ?」
「はいはい、もう少し待ってもらえませんか団長様」
考えすぎると、幻聴まで聞こえてくるのかと。
グツグツと特大の鍋で煮ているカレーをぐるぐるとかき混ぜていると。
視界の隅にピコピコと動くピンク色のアンテナを捕らえた。
「…………団長、何でいるんですか?」
「んー? 阿伏兎が作るカレーの匂いがしたから」
「理由になってないだろ」
万事屋に招き入れ、カレーを作らせていた張本人である神楽は、兄の神威に顔を掴まれ、ムガムガと抵抗しようとしていた。
「あっ、阿伏兎ー俺は超大盛りね?」
「了解しましたよ」
二升炊いといてよかったな、とそろそろ炊き上がる炊飯器を横目で見ながら思った。
「私が頼んだカレーネ!!」
「うるさいなー、阿伏兎おかわり」
「団長、あんた地球の飯食いに来たはずじゃ……」
神楽の頭を押さえ込みながら、特盛りのカレーをニコニコとしながら食べる神威は、阿伏兎からの質問にサラリと答えた。
「食べたよ? でも阿伏兎が作ったのが一番落ち着くから」
おかわりよろしくね、と綺麗に食べ終わった皿を差し出しながら阿伏兎に注文をつけた。
注文の多いお昼時
「……最上の褒め言葉ありがとうございます、コンチクショー」
end
(2010/05/14)
リサ様リク『かむあぶ+神楽でほのぼのしたお話』
「いちゃ悪いかねぇ?」
神威と同じ青い目を軽く見開き、見上げてくる神楽を見下ろしながら。
何でよりにもよって会ったんだかねぇ、とかぶき町の路上で阿伏兎は内心愚痴った。
「バカ兄貴も一緒アルか?」
「いや……そのバカ兄貴こと団長を探しに来た」
フラフラと遠出するにしても、もう少し考えて欲しかったもんだ、とため息をつく様に呟く阿伏兎の言葉に、まさか、と神楽は眉を寄せ、キッと睨んだ。
「バカ兄貴が、銀ちゃんを殺しに来たアルか」
グッと傘の柄を握り、今にも戦闘態勢に入りそうな神楽を前に、まてまて、と阿伏兎は手で制した。
「警戒しているところ、多分に悪いが、団長は今回は侍よりも地球産の飯が目当てで来日したはずだ」
「ふん、ちゃんと手綱ぐらい握っとけヨ」
「手綱を握られてんのは、立場上こっちなんだがねぇ?」
ため息はついた分だけ幸せは逃げていく、と言う言葉をかけるまでもなく、阿伏兎は盛大にため息をつき、神楽に背を向け神威探しを再開させようと歩き出した。
「待つアル」
「ん? できれば布が伸びるんで掴むのを止めてもらえないかねぇ、嬢ちゃん」
日よけ用のマントを掴まれ、後ろ髪ではなく後ろ布を引かれた阿伏兎は、振り向き神楽を見下ろした。
「バカ兄貴が地球に来てるのを知ったせいで、私の気分が優れなくなったネ。慰謝料として昼ご飯作ってくヨロシ」
「勘弁してくれよ、嬢ちゃん」
盛大に呆れ、首を振った阿伏兎は、何故そんな理由で団長が楽しみにしている侍がいる場所なんぞに、行かなくてはいけないのかと訴えた。
「大丈夫ネ、銀ちゃんと新八は今日依頼が入って夜まで帰ってこないネ」
「嬢ちゃん……年頃の娘が知らない男と一つ屋根の下にいちゃいかんと言う言葉を教わらなかったのか?」
「知らない男じゃないネ、バカ兄貴の尻拭いしてる部下アル」
呆れ半分、説教半分に問う阿伏兎だったが、神楽の回答に、今度こそ神経を疑った。
「将来有望な夜兎は、揃いも揃って常識がないようで……」
オジさん、最近の若い子が受けた教育方針がよくわかんないねぇ、
と嘆く阿伏兎を無視して、神楽は阿伏兎のマントを引っ張りながら万事屋へと向かった。
「…………で、カレーを作れと」
「早く作るアル。たまねぎが黄金色になるまで炒めて、芋とか野菜がドロドロにルーに溶け込んだ田舎カレーしか認めないアル」
「あーもー、何でこうなったかねぇ、団長様を探す旅が一変して料理教室か?」
「四の五の言わず作れヨ、元はと言えばお前が私の前に出なければよかった話ネ」
「はいはい、口だけは達者なようですねぇ、最近の若い子は」
何でこうなったか、と嘆いても始まらず。
共食いをする気もさらさら無いので、穏便にカレーを作り始める阿伏兎だった。
ニンジン、ジャガイモを適当に切り、鍋に水と一緒に放り込んだ後。
注文どおり玉ねぎを黄金色になるまで炒め、カレールウを放り込み、文字通りドロドロになるまで煮込み。
時折カレーをかき混ぜていた阿伏兎は、そう言えば団長もこんなカレーが好きだったような、と遺伝と嗜好の関係をぼんやりと考えた。
「阿伏兎ーカレーまだ?」
「はいはい、もう少し待ってもらえませんか団長様」
考えすぎると、幻聴まで聞こえてくるのかと。
グツグツと特大の鍋で煮ているカレーをぐるぐるとかき混ぜていると。
視界の隅にピコピコと動くピンク色のアンテナを捕らえた。
「…………団長、何でいるんですか?」
「んー? 阿伏兎が作るカレーの匂いがしたから」
「理由になってないだろ」
万事屋に招き入れ、カレーを作らせていた張本人である神楽は、兄の神威に顔を掴まれ、ムガムガと抵抗しようとしていた。
「あっ、阿伏兎ー俺は超大盛りね?」
「了解しましたよ」
二升炊いといてよかったな、とそろそろ炊き上がる炊飯器を横目で見ながら思った。
「私が頼んだカレーネ!!」
「うるさいなー、阿伏兎おかわり」
「団長、あんた地球の飯食いに来たはずじゃ……」
神楽の頭を押さえ込みながら、特盛りのカレーをニコニコとしながら食べる神威は、阿伏兎からの質問にサラリと答えた。
「食べたよ? でも阿伏兎が作ったのが一番落ち着くから」
おかわりよろしくね、と綺麗に食べ終わった皿を差し出しながら阿伏兎に注文をつけた。
注文の多いお昼時
「……最上の褒め言葉ありがとうございます、コンチクショー」
end
(2010/05/14)
リサ様リク『かむあぶ+神楽でほのぼのしたお話』