かむあぶ

「阿伏兎~なんか飲み物ちょうだい」
「はいはい」

ゴホゴホと咳をしながら、口にマスクをしてベッドでおとなしく(?)横になっている団長の命令を聞く。

「阿伏兎~おなかへった」
「はいはい……」

やれお粥が欲しい、服が濡れてヤダ、と言う団長の命令を聞く此方のみにも少しはなって欲しいものですねぇ?


「阿伏兎、ずっと傍にいて」
「団長…………あんた、書類ほったらかしで戦闘に行って、雨でずぶ濡れになったにも関わらず、人の忠告無視してフラフラと出歩いて風邪をひいときながら、随分と身勝手な事を言うなぁ?」
「頭が痛いよー阿伏兎ー、ここは一つ汗を流す運動をして、風邪を早く治したいんだけど?」
「一生寝込んでろ!!」

と、まぁ、本当に風邪なのかと言いたくなるほど自覚症状の少ない団長を部屋へと放置し。
毎度の事ながら山となっている書類に向かった。


「……………」


まではよかったのだが……
どうにも、静かな部屋の中でペンを走らせているのに違和感があった。

いつもなら静かにしろといくら怒鳴っても話しかけてくる団長の声や、すぐ近くにいる気配……
ようするに、鬱陶しいほどに構ってくる団長がいないと言うだけで、集中すらできなかった。

「はぁ……普通逆だろ」

我ながら呆れたくなるほどの団長バカぶりに、思わず舌打ちをしてしまった。


「あれ、阿伏兎、戻ってきてくれたんだ」

へらり、と熱で顔を赤くしている団長が笑った。

「早く治せ、このすっとこどっこい」

団長の額に置いてある、なまぬるくなったタオルを取替えながら、こんな状況でも笑っている団長を見下ろした。

「んー? 俺がいなくて寂しかった?」
「ケッ、あんたのせいには違いしませんがねぇ」
「アハハッ! じゃあ、早く治さないとね」

不本意ながら、認めたくもないが、団長のせいではあったのでそう言うと、嬉しそうにゲホゲホと咳をしてからのたまった。


「阿伏兎ー」
「何ですか団長」
「治ったらすぐ一発ヤろうね?」
「……このまま一生寝込んでろ」



何とかは風邪をひく
風邪をひいたせいで磨きがかかりやがって……


end
(2010/04/23)
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