萌語り

◆注:続・オメガバース 


α神威×β阿伏兎。
外見が近しい他種族のΩの匂いにもαや時にβまで反応するとして。
捨て駒的に発情期のΩを使っての時間稼ぎぐらいしそうな裏社会。
上官がαとかありそうな事だし、匂いが強ければβも引きつけるし。
時間稼ぎ的には最適、ただしΩの発情期の周期的に滅多にない戦法。
滅多にない罠だからこそ、あまり対策はしてないとして。
敵にとっては運良く、第七師団にとって運悪く、そんな罠にぶち当たるとか。

はたまた、団長に番だ何だと言われてもβだから軽く流す阿伏兎とか。

あとは、βだったけど後天的にΩになって、団長の番になりえる可能性が出て。
何の冗談だって検査結果の紙を見ながら呟く阿伏兎とか萌える。
βでも血液型で言う所のBO型だったみたいなので、団長に誘発されてとか何かそんな感じので。
先天的なΩよりは発情期の期間は短いし周期は長いし、フェロモンも弱いとかで。
抑制剤で誤魔化しきれる範囲で、薬を飲み忘れなければ大丈夫だろ的に楽観視してたら。
それでも「何かいい匂いするね、阿伏兎」とか言われて団長に喉元orうなじに噛み付かれるとか。
その後。
これで今度こそ番になれたね、とかにこやかに団長に言われて、死刑宣告くらった気分になる阿伏兎。
夜兎族が増えて欲しかったんだよね?とか確認をとるように問われて冷や汗が止まらない状況。
阿伏兎の発情期っていつだろう、と楽しみにされて休暇でもとって逃亡するかと一瞬マジで考える。
がしかし、逃げられそうにもない。そんな感じのオメガバースかむあぶに萌える。

「これは……また酷い香りだな」

むせ返りそうなほどの香りに眩暈がしそうだった。
Ωの香りも行き過ぎればβすら引き寄せる。
αでなければ関係がないと言いきれない所が忌々しい。

「抑制剤抜きの捨て駒か、確かに効きはするだろうな」

Ωの匂いにうといβですらグラつかせる。
そんなモノを敵の前に置き去りにすれば、時間稼ぎにはなるだろう。
見れば団員達の足取りが一様に遅くなった。
この中でも優々と動けるのは――

「……団長?」

確かな足取りで匂いの発生源へと向かう後ろ姿に、一瞬呆けた。
同時に、わずかな危機感と期待が込み上げた。
敵の用意した駒だと言う危険性はあるが、仮に。
仮にこの匂いの主が、団長の番のものだとしたら、と。

「此処だね」

厳重な扉を前に呟き、早々にその扉を蹴り破った後。
中にいる者に神威は目を細めた。

「酷い臭いをまき散らさないでよ、迷惑だろ?」

仕込み銃を何のためらいもなく発砲し。
僅かばかりに薄れた匂いと火薬臭漂う部屋に満足気な笑みを浮かべて振り返った。

「よし。消臭終り!早く次に行こうか」
「…………はぁ?」
「ほら、早く行くよ、こんな酷い臭いの所さっさと出ようよ」
「いや……おい、団長? あんたこの匂いを前に何とも思わないのか?」
「え? 何が?」
「こう、下の方に直撃して理性を取っ払いたくなる感覚とかは?」
「別に?」
「別にって……」
「酷い臭いだとは思うけど、昔からよくしてた悪臭だし何とも思わないよ」
「……悪臭?」
「悪臭だろ?」
「いやいや、これはあんたの番にもなりえる奴らが出す匂いで、むしろ良い方の……」
「へーそうなんだ」
「そうなんだって……」

いま一つ分かっていない様子で返す相手に、思わず頬が引きつった。

「どうでもいいけど、さっさとこんな仕事終わらせようよ」
「……そうだな」

何を言っても無意味そうだと理解し。
仕事を終わらせたがっている上司の命令を聞くことにしたが。
Ωが出す匂いを悪臭だと言いきる様を思い返し。
団長の番探しの難易度が輪をかけて酷くなった気がした。



「嫌な臭いだね」

色々なものがごちゃ混ぜになった臭いに、相変わらずだと思いつつ通路を進み続けた。

「早い帰りだな、団長」
「ただいま、阿伏兎」
「で? 随分と不快そうだが、詰まらん仕事だったか?」
「そこそこ楽しかったよ?」
「ほぉ、それはそれは」

では何故といった顔で見てくる阿伏兎を無視して、思い切り抱き着いた。

「相手でもしろと?」
「俺がただ抱き着いただけで随分な言い様だね」
「は! 何を今さら」
「別に、今はそう言う気分じゃない、かな?」
「疑問系か」
「阿伏兎ってほっとする匂いだね」
「そうか? βなんざΩと違ってただの体臭だろうに」
「それでも、阿伏兎だからいいよ」
「おい…ッ、人の首に噛み付くな」

じゃれ合う過程で無性に噛み付きたくなって歯をくい込ませれば。
呆れ混じりながらも阿伏兎は軽く警告する程度だった。

「ねぇ、阿伏兎」
「何だ? 団長」
「今ので阿伏兎って俺の番になった?」
「なる訳あるか。噛み付かれて番になるのはΩだけだ」
「ふーん」
「あんたもその内、番にしたくてしたくて堪らない匂いの奴に出会うさ」


(2019/03/21)
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