かむあぶ

「いっッ!?」


溜まった書類を片付け、肩が凝ったかと思い、軽く回そうとしたら、四十肩のように上がらなかった。

「どうしたの阿伏兎?」

近くでダラダラと寝そべっていた神威がお気楽に聞いてきた。


「あー……団長、すみませんが湿布をくれますかねぇ?」
「あはは! おやじ臭いなー」

ケラケラと笑う神威に、確かに中年ではあるが、この肩凝りは誰のせいだ、とピキリと額に青筋がたった。

「あ、そうだ阿伏兎、ちょっとそこに横になって?」
「悪ふざけなら後にしろ、さっさと湿布よこせ」
「いいから、横になれよ」

優しげな表情とは裏腹に、かなり乱雑に床にうつぶせにさせられた。

「おいっ! 聞いてるのか、このアホ団長!!」
「うるさいなー、少し黙っててよ」

まさかこれから別の意味で疲れる事をしようとでも言い出しそうな神威に、ありえすぎて身の危険を感じた。

「ッ……!?」
「うわー、そうとう凝ってるね」
「……あー…団長、あんたどこで覚えたんだ?」

上に乗られながら、凝りをほぐすように的確に背をもまれた。

「俺にできない事なんてないよ」
「世渡りとデスクワーク以外は、か?」

意外な特技もあったもんで、と付け加えると、クスクスと笑われた。



「ッ……アッ…」
「阿伏兎ー、あんまり声出さないでよ、ムラムラしちゃうだろ?」
「いやいや、あんたが上手いからだろ? こんな特技持ってるなら、できれば早く言って欲しかったですねぇッ…はぁ……もう少し上たのむ」
「上司にマッサージさせるなんて普通ないよ?」
「誰のせいでこんな風になったと思うんだ?」
「その言い方だと何かエロく聞こえるよ?」

そう言いつつも、悪戯さえしそうにない神威はマッサージを続けた。
眠ってしまいそうなほどの心地よさに、ついうとうととしていると、スッと手が離れた。

「はい、おしまい」
「あ? もうか?」
「だって、けっこう時間経ってるよ?」

至福の時間とは時が経つのが早いもので、時計を見れば相当な時間が経っていた。
それは、わかるのだが……


「んー、しょうがないなー阿伏兎は、もう少しやってあげるよ」

困ったような嬉しそうな顔で神威は笑いながら、また手を動かし始めた。

「まだ何も言ってませんがねぇ?」
「だって、続けて欲しかったんだろ?」
「ほー、人の事をあまり気にかけないあんたが、よくそんな気遣いができたな」

なかば、ちょっとした嫌みで口に出すと、クスリと笑い声が聞こえてから返答があった。


「そんな事無いよ、俺はいつだって阿伏兎の事を見てるし、阿伏兎の事ならだいたいわかるよ?」


ほんわりとした、まるでいとおしむかの様な声で言われ、すぐに、二の句が継げなかった。

「……あんた、それは無自覚か?」
「なにが?」
「あー、何でそう恥ずかしげも無く言えますかねぇ……若い子のストレートすぎる言いざまに、おじさん恥ずかしくなっちまいますよ」

本当に恥ずかしい、耳が熱くなってきた。


「阿伏兎、耳まで赤いね?」
「誰のせいだ、誰の」



ちょっと待て……
癒しの後は羞恥プレーか? このすっとこどっこい。


end
(2010/03/08)
k様リク『かむい×あぶと、あぶとが癒される話』
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