かむあぶ

「は~……癒されるねぇ」


ホカホカと湯気の立ち込める中、風呂に浸かった阿伏兎は体の凝りをほぐす。


「本当だね~」
「……団長、すみませんが何でいるんですか?」
「もちろん、阿伏兎が入って行ったのを見たから」

ニッコリと笑い肩まで浸かっている上司は、さも当然と言った。

「あんたの部屋にも備え付けがあるだろ」

ススッと距離をとる阿伏兎、離れた距離だけ近づく神威。

「ん~、たまには部下の入ってる所にだって行きたいんだよ」
「いやみですかい?」

師団の団長ともあれば、一人で使い切れないほどの大きさの風呂が備え付けられているはずだった。
何もこんな狭い大衆浴場に来なくても、とひがみを言うように神威を睨んだ。


「じゃあ、阿伏兎も俺の部屋の風呂を使えば良い、そうすれば俺も阿伏兎と入れるし、一石二鳥だろ?」

さあどうだ、と言わんばかりの提案をする神威に、近くにあった桶で湯をすくって、そのピンク色の髪にかけた。

「ひどいな~」
「冗談言ってないで、さっさと出てけ、このバカ団長」
「良い提案だと思ったのになー」
「どこがだ……」

あーあ、残念と言いつつも近寄ってくる神威。
同じ速度で阿伏兎は距離をとった。


「何で逃げるの?」
「何で近づくんですか?」

じっと神威の様子をうかがう阿伏兎は、嫌な予感がしてしょうがなかった。
そんな阿伏兎に、見るものが見れば、可愛らしい笑顔を向けた神威は口を開いた。

「ほら、風呂でする事って言ったら一つしかないだろ?」
「………………」

いますぐ逃げようかと、立ち上がろうとした阿伏兎はガシリと腕を掴まれ、ザバリと湯に戻された。

「げほっ!?」
「しっぽりと温めあおうよ、阿伏兎」



お風呂が一番
癒されますか?


end
(2010/02/26)
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