銀阿
「節分ってのはどう言う行事だ、嬢ちゃん?」
「鬼役を落花生で再起不能にする勢いで退治する行事ネ。その後、鬼退治お疲れ様会で恵方巻き食べ放題ヨ」
「ほぉ、地球の行事にしては随分と過激だな」
神楽の説明に感心したように相槌を打つ阿伏兎。
その隣では、新八が口元を引きつらせていた。
「神楽ちゃん、色々と間違ってるんだけどその説明……」
合っているようで、色々と違う説明。
せめて今から鬼役で来る銀時が、命だけは落とさない事を祈るしかなかった。
「悪い子はいねぇかァアアアア!!」
紙でできた鬼の仮面を被った銀時は、勢いよく襖をあけて叫んだ。
「銀さん! それなまはげの台詞です!!」
「あれ、そうだっけ? いやー節分とか久々で…」
「行くアル、阿伏兎! 全身全霊を込めて投げつけるネ!!」
「すまんな。銀時の旦那」
「えっ?」
フォオオオオ! っと気合いを籠めて落花生を握る神楽。
投げつけるのは気が進まんが、といった風情ながら目は本気の阿伏兎。
尋常ではない二人の様子に、銀時は慌てた。
「イヤイヤイヤ!? 節分てそんな殺気立って鬼を追い払う行事じゃッ…!?」
「ウルァアアアア! 鬼はァアア外ネェエエエエ!!」
「ギャァアアアアアアアア!!」
ストップをかける銀時を無視し、大きく振りかぶった神楽は落花生を投げつけた。
神楽にならうように続ける阿伏兎の援護射撃もあり、銀時は一目散に外へと向かった。
「ほ、本気で投げつけやがって神楽の奴……」
銃弾のような落花生。
まさに命かながらの逃走劇だった。
「まぁ、鬼としてはリアル感があっていい感じだったな」
いい仕事をした的に汗を拭く銀時。
暫くの間、雪が降る様子を眺め続けた。
「――で、いつ帰るのこれ?」
ふとした疑問。
見れば周りにも、帰り時が分からずにうろうろと彷徨う鬼達(仮)がいた。
「ヤベェエエエ!? 完全に帰り時が迷子になりやがった?!」
どうする、どうするよこれ、とその場で頭を抱えて銀時は悩んだ。
「早く帰らないとッ…! いやでも、撃退したはずの鬼がすぐ帰るってどうなんだ?」
そもそも鬼の帰り時っていつなんだと自問自答。
悩む銀時は、うろうろと降り積もった雪の上を8の字に歩いた。
「銀時様も、鬼だったんでござんすか?」
「え?」
黒い喪服に金棒。
頭に生える二本の角。
そこら辺にいるなんちゃって鬼達(仮)ではない、本物の鬼。
雪降る中、足音をさせずに歩いてくる外道丸に対し、銀時は目を瞬かせた。
「……何でいるの?」
「結野家の節分で追い出されたんでござんす」
「いやいや、鬼を式神にしてるのに鬼追い出す行事してどうすんだよ」
「いえいえ、毎年恒例でして。午前中に『お鬼は~外』で追い出され、午後に実力のある鬼だけが、結界やらなんやらで強化された屋敷に殴り込みに行き主人の元に戻る、とそんな感じでござんす」
「毎年そんなことしてんの!?」
どんだけハードな節分だッ、と突っ込みを入れる銀時。
それに対し、外道丸はつとめて冷静に答えを返した。
「主人への忠誠と実力を兼ね備えた鬼だけが使役される、理にかなった行事だとあっしは思いやす。毎年クリステル様の元に戻るたびに、満面の笑顔で迎えられる、とても美味し…いえ、楽しい行事でござんす」
「今明らかに美味しいとか言いかけただろ。俺も満面の笑顔で迎えられてみてぇよ! こっちなんか、きっと今頃銀さんの存在忘れきって恵方巻き食い大会がくり広げられてるよ。恵方巻きを頬張ってるのガン見してあらぬ妄想しようとか思ってたのに、完璧に忘れ去られてるよ!」
「でしたら、銀時様も結野流の節分のように、自力で戻ってみてはいかがでござんすか?」
「えっ?」
「追い出されるだけが鬼の役目だとは思いやせん。例え、鬼は外と豆を投げつけられ一端は屋敷内の厄を追い出しきった後でも、無理矢理戻るのが礼儀と言うもの」
「いや、それは完全にヤンキーの理論だろ。完全にお礼参りだろそれ」
「では、あっしはこの辺で、クリステル様と一緒に恵方巻きを食べる行事が残ってますんで。あー、寒空の下追い出された鬼達を後目に、今からとても楽しみな行事でござんす」
「自慢!? 絶対自慢しに来ただけだろお前!?」
自慢するだけしきって、さっさと来た道を帰る外道丸。
まさに外道、家に帰るに帰れない鬼達(仮)を無視し、歩いて行く本物の鬼。
その後ろ姿が見えなくなった後、銀時は静かに呟いた。
「……帰るか」
深く考えるのも馬鹿馬鹿しくなってきた、と銀時は万事屋の玄関へと向かうことにした。
節分戦線
第二ラウンド突入。
「阿伏兎! また鬼が来たネ! 早く落花生を投げて撃退するアル!!」
「地球の行事はやけに設定が凝ってるな」
end
(2014/02/04)
「鬼役を落花生で再起不能にする勢いで退治する行事ネ。その後、鬼退治お疲れ様会で恵方巻き食べ放題ヨ」
「ほぉ、地球の行事にしては随分と過激だな」
神楽の説明に感心したように相槌を打つ阿伏兎。
その隣では、新八が口元を引きつらせていた。
「神楽ちゃん、色々と間違ってるんだけどその説明……」
合っているようで、色々と違う説明。
せめて今から鬼役で来る銀時が、命だけは落とさない事を祈るしかなかった。
「悪い子はいねぇかァアアアア!!」
紙でできた鬼の仮面を被った銀時は、勢いよく襖をあけて叫んだ。
「銀さん! それなまはげの台詞です!!」
「あれ、そうだっけ? いやー節分とか久々で…」
「行くアル、阿伏兎! 全身全霊を込めて投げつけるネ!!」
「すまんな。銀時の旦那」
「えっ?」
フォオオオオ! っと気合いを籠めて落花生を握る神楽。
投げつけるのは気が進まんが、といった風情ながら目は本気の阿伏兎。
尋常ではない二人の様子に、銀時は慌てた。
「イヤイヤイヤ!? 節分てそんな殺気立って鬼を追い払う行事じゃッ…!?」
「ウルァアアアア! 鬼はァアア外ネェエエエエ!!」
「ギャァアアアアアアアア!!」
ストップをかける銀時を無視し、大きく振りかぶった神楽は落花生を投げつけた。
神楽にならうように続ける阿伏兎の援護射撃もあり、銀時は一目散に外へと向かった。
「ほ、本気で投げつけやがって神楽の奴……」
銃弾のような落花生。
まさに命かながらの逃走劇だった。
「まぁ、鬼としてはリアル感があっていい感じだったな」
いい仕事をした的に汗を拭く銀時。
暫くの間、雪が降る様子を眺め続けた。
「――で、いつ帰るのこれ?」
ふとした疑問。
見れば周りにも、帰り時が分からずにうろうろと彷徨う鬼達(仮)がいた。
「ヤベェエエエ!? 完全に帰り時が迷子になりやがった?!」
どうする、どうするよこれ、とその場で頭を抱えて銀時は悩んだ。
「早く帰らないとッ…! いやでも、撃退したはずの鬼がすぐ帰るってどうなんだ?」
そもそも鬼の帰り時っていつなんだと自問自答。
悩む銀時は、うろうろと降り積もった雪の上を8の字に歩いた。
「銀時様も、鬼だったんでござんすか?」
「え?」
黒い喪服に金棒。
頭に生える二本の角。
そこら辺にいるなんちゃって鬼達(仮)ではない、本物の鬼。
雪降る中、足音をさせずに歩いてくる外道丸に対し、銀時は目を瞬かせた。
「……何でいるの?」
「結野家の節分で追い出されたんでござんす」
「いやいや、鬼を式神にしてるのに鬼追い出す行事してどうすんだよ」
「いえいえ、毎年恒例でして。午前中に『お鬼は~外』で追い出され、午後に実力のある鬼だけが、結界やらなんやらで強化された屋敷に殴り込みに行き主人の元に戻る、とそんな感じでござんす」
「毎年そんなことしてんの!?」
どんだけハードな節分だッ、と突っ込みを入れる銀時。
それに対し、外道丸はつとめて冷静に答えを返した。
「主人への忠誠と実力を兼ね備えた鬼だけが使役される、理にかなった行事だとあっしは思いやす。毎年クリステル様の元に戻るたびに、満面の笑顔で迎えられる、とても美味し…いえ、楽しい行事でござんす」
「今明らかに美味しいとか言いかけただろ。俺も満面の笑顔で迎えられてみてぇよ! こっちなんか、きっと今頃銀さんの存在忘れきって恵方巻き食い大会がくり広げられてるよ。恵方巻きを頬張ってるのガン見してあらぬ妄想しようとか思ってたのに、完璧に忘れ去られてるよ!」
「でしたら、銀時様も結野流の節分のように、自力で戻ってみてはいかがでござんすか?」
「えっ?」
「追い出されるだけが鬼の役目だとは思いやせん。例え、鬼は外と豆を投げつけられ一端は屋敷内の厄を追い出しきった後でも、無理矢理戻るのが礼儀と言うもの」
「いや、それは完全にヤンキーの理論だろ。完全にお礼参りだろそれ」
「では、あっしはこの辺で、クリステル様と一緒に恵方巻きを食べる行事が残ってますんで。あー、寒空の下追い出された鬼達を後目に、今からとても楽しみな行事でござんす」
「自慢!? 絶対自慢しに来ただけだろお前!?」
自慢するだけしきって、さっさと来た道を帰る外道丸。
まさに外道、家に帰るに帰れない鬼達(仮)を無視し、歩いて行く本物の鬼。
その後ろ姿が見えなくなった後、銀時は静かに呟いた。
「……帰るか」
深く考えるのも馬鹿馬鹿しくなってきた、と銀時は万事屋の玄関へと向かうことにした。
節分戦線
第二ラウンド突入。
「阿伏兎! また鬼が来たネ! 早く落花生を投げて撃退するアル!!」
「地球の行事はやけに設定が凝ってるな」
end
(2014/02/04)