銀阿

「パラパラワールド? 何だそりゃ、死ぬまでパラパラでも踊り続ける世界かよ」

からくり堂に来ていた銀時は鼻をほじりながら源外の説明を聞いていた。
一頻り説明を続けていた源外は銀時の反応の悪さに頭を掻いた。


「ちげーって、どう聞きゃそうなるんだ。パラレルワールド、簡単に言うと此処とは別の世界ってことだ」
「興味ねぇな。どうせならもう少し使えるやつ作れよ、じーさん。出来れば卵かけご飯に関係しないので」
「分かってねぇな、銀の字。此処とは少しだけ違う事が折り重なった世界ってことは、ちゃらんぽらんでどうしようもないプータローのお前にも別嬪の嫁さんがいる世界があるかもしれないって事だ」
「おい、頭の最後の希望まで引き抜くぞジジイ。誰がちゃらんぽらんでどうしようもないプータローだ」
「ハッ! 人間得てして図星を刺されると逆上するもん、イテテテッ…オイ!! 本気で引き抜こうとするバカがいるか普通!!」

本気で髪を引き抜こうとしていた銀時は手を離しながら話を戻した。


「で? そのパラレルだかがどうしたって?」
「たく、若い奴は結論を急ぐからいけねぇや。要するにだ、俺が新しく作ったこの機械はその別世界にいる自分が見てるものを見れる装置だ」
「おいおい、何だその家庭教師ヒットマンREBORN! の白蘭並みの覗き見装置」
「ふっ、すげぇだろ? この装置の長所はテメェが望む世界を覗き見するだけじゃねぇ、どうすればその世界に近づけるか、その道標をほんの少しだけ教えてくれる所だ」
「例えるならよく玉の出る当たり台を知れるようなもんか」
「ま、オメェさんの貧相な頭じゃ、そんなしみったれた考えが限度だろうよ。とにかく自分で試してみろ、銀の字」

ほれ、と大量のコードがつながったヘルメットを渡してくる源外。
ソレを受け取り、銀時は疑わしそうに眺めながら訊いた。

「一つ聞くがよ、じーさん。コレ誰かに試し「よーし! 後はソレ被れ! 条件は今入力してる!!」

「オィイイ!? 人の話無視すんじゃねぇよジジイ!! マジで大丈夫なのかよコレェエエエ!!」
「四の五の言ってねぇでさっさと被りやがれ!!」
「くっそー、後でアルバイト料請求するからな!!」
「条件は巨乳で優しい料理上手の嫁さんのいる世界でいいか銀時!」
「ついでに床上手な!」

やけくそで言い放った銀時は機械を被り目を瞑った。



ぼんやりと薄目を開けると布団の中だった。
ジャスタウェイ型の時計が鳴っていたので手を伸ばして止め、もそもそと布団から這い出た。
ふと横の方で誰かがしゃがみ込んで此方を見ているのに気づき視線を向けると、ニッコリ笑顔の人物。

「早く起きないと、殺しちゃうぞ?」

忠告をされた直後に、手刀が振り下ろされた。



「カットォオオオ! 何で朝から殺意満々の神楽の兄ちゃんに殺されかけてんだパラパラワールドの俺ェエエエ!!」
「ん? どうした銀の字。不具合でもあったか」
「不具合もクソもあるか!! 巨乳で優しい料理上手の嫁さんのいる世界って条件で何でこうなるんだよ?! 優しい嫁がいるどころの話しじゃねぇ、殺意満々の相手が目の前にいたんだぞ!?」
「おっかしいな、条件からそんなに外れるはずはねーんだが……ちと理想が高すぎたんじゃねぇか? さすがの俺もお前さんにそんな出来た嫁さんが来るとは思わなかったけどな」
「おい、何気にひでー事言ってんぞジジイ。パラレルワールドにさえ俺にはそう言う希望がないのかよ」
「まあ、始めの部分ちょっと見ただけだろ? それで決めつけんのは早過ぎじゃねぇか?」
「いやいや、だいたい漫画も小説も始めの数ページで読者の心掴まなきゃ意味がないからね、心捕まれなかった読者に最後までとか苦行だからねソレ」
「推理小説とかあんだろ、それと一緒だ」
「トリックも犯行に至るまでの過程も全部吹っ飛ばしてた映像だったんですけど?! 初っ端から殺人現場とか何処の火サス!?」
「うるせーな、御託はもう少し続き見てから言え!!」

強制的に銀時に機械を被せ、源外は機械のスイッチを勝手に入れた。



先ほどと同じように目を開けると、殺意満々の神威がいた。
ただ、少し違ったのは、手刀は振り落とされる途中で止まっていた。


「団長、旦那を殺そうとするな」
「ありゃりゃ、残念。今日も運がいいね? お侍さん」

おしかったなーとケラケラと笑いながら手を引く神威。
寝室を殺人現場にする事を阻止した阿伏兎は、ため息をついてから銀時へと視線を向けた。


「旦那も、毎朝団長に殺されようとする前に起きろ」

寝坊助に対して言われる定番『起こされる前に起きろ』の物騒版。
何処の世界に毎朝死と隣り合わせの起こされ方があるのか、とツッコミを入れようとして気づいた。
このパラレルワールドの自分にとっては日常なのかと。

「早くしてね、五秒以内に来ないと俺が朝食全部食べちゃうよ」

笑顔で念を押した神威はリビングへと向かった。
リビングの方でソファーに座っていた神楽はひょっこりと覗き込んできた。

「むお、銀ちゃんまだ寝てたのかヨ」
「今日もおしかったなーもう少しでヤれたのに」
「毎朝毎朝、自殺志願者かヨ。阿伏兎の手を煩わせるのもいい加減にするネ、朝食の時間が遅れるアル」
「そうそう、朝食が冷める前までには起きてほしいよね」

調子を合わせて銀時へと文句を言う神威と神楽。
その様子を見ていた阿伏兎はため息を吐いた。

「まったく、団長も嬢ちゃんも朝食の事しか頭にないのか……」

やれやれと肩をすくめ、そこでまだ布団の中にる銀時の方へと振り返り、苦笑しながら訊いた。

「旦那、いつまで布団にいる気だ?」


そこで映像はプツリと途切れた。



「……なんか、幸せ家族の朝の風景が広がってたよ」

機械を頭から外し、額に片手を当てながら銀時は呟いた。
その感想を聞いた源外は、満足気に頷き聞き寄った。

「どうだ? 条件的にガッチリ当てはまってただろ?」
「別方向だったけどな。巨乳と言うより大胸筋が発達した胸だったけどな」
「いいじゃねぇか、大胸筋も美乳の条件の一つだぞ? つんと張りのある胸ってのは脂肪と筋肉が程よく必要だ」
「あーそうかよ」
「で、どうするんだ銀の字?」
「は? 何が?」
「始めに言っただろ? 道標だよ。さっきの映像が現実になる道標がこの機械の真骨頂だ」

どうする、と視線を投げかける源外に少し考えた後、銀時は口を開いた。

「……いる」
「よし! じゃあ今すぐ吉原に行け!」
「は? え、何で?」
「そう機械がはじき出したんだよ」

ほれ、とその後の行動を書き記した紙を渡した源外は、景気づけに銀時へと声をかけた。

「よーし、張り切って行ってこい! 後で綺麗所に慰められる話はじっくりと聞いてやる!」
「え、なにちょっと待って、今何つった?」
「出来れば、慰められるねーちゃんは、ぼんきゅっぼんの安産型でだな」
「何で慰められること前提なんだよ!? 何それ?! おいどうしたよ道標!! 完全に道標が迷子になってんじゃねぇか!!」

「妥協案の妥協ぐらい想定の範囲内だろ?」
「妥協案の妥協って、それもはや別のモノォオオオ!!」
「いや、オメーの場合さっき見たパラレルワールドでさえ無理な可能性があるからな」
「希望がないなら始めから見せるな! なにその、気がある振りしときながら『私、貴方にまったく興味ないから』とか言って振っちゃう系の女子か!?」
「どっちかってーと、気がある振りして流し目寄越しながら、寸止めで厳つい男が出てきて金せびる系だ」
「美人局か!? どっちにしろ詐欺じゃねーか!!」
「取り敢えず行ってこい、銀の字! そして俺に後でぼんきゅっぼんの美人を絶対に教えろ!」
「完全に慰められるの前提じゃねぇかよ!? 覚えてろよクソジジイ! ぜってー現実にしてやるからな!!」


指示通りに吉原に来た銀時は、源外から貰った紙を開きながら走り続けた。

「次はどこに行けば良いんだ!?」
『正面に見える角を右。次の角を左に曲り300m直進。直進した先の角を左に曲り500m道なりに行く。右下・左・左下・下・右下・右・左・下・左下・BC同時押し。逶ョ縺ョ蜑阪・莠コ迚ゥ縺ォ豁」髱「縺九i隧ア縺励°縺代k』
「オィイイイ!? 最後文字化けしてんじゃねぇかこの道標ェエエエエ! そして何で途中必殺技コマンド入力になってんだよ!? 無駄になげーよ!!」

走りながらツッコミを入れた銀時は、役に立つかこんなもんと叫び、紙を破り捨てた。

「もういい、勘だ! 勘で探し出してやる!!」

全力で走りながら周りを見回し続け、視界の端に一瞬見えた黒色に急ブレーキをかけた。
晴れでも傘を差して歩いている人物を見つけ、銀時は叫びながら走り寄った。


「すいませーん!! ちょっとそこの人、俺とォオオオ!!」


走り寄りながら手を伸ばして相手の服を掴もうとすると、急に相手が振り返ってきた。

「ちょっ…!?」

振り向きざまに不審人物へと蹴りを入れようとした相手。
咄嗟に目を閉じ、腕を前に組んでガードをした、が、来るはずの衝撃はなかった。

「……お前さん、誰かと思えば団長のお気に入りの侍か」

不審人物を蹴ろうとした足を寸前で止め下ろし、阿伏兎は銀時を見下ろした。

「危ないねぇ、人を後ろから襲い掛かろうとするなんざ。怪我をしても文句は言えんぞ?」

危うく団長の楽しみを潰すところだったと、無傷の銀時を見ながら阿伏兎はため息を吐いた。


「で、吉原の救世主が何の用だ?」


あれだけ大声で呼んでおきながら何もないはない。
もっともな質問をする阿伏兎に、銀時は一瞬言葉に詰まった。

「あ、えー……酒でも一緒に飲まないかと」
「ほぉ、酒ねぇ? 生憎とこっちは今すぐに帰るんだが?」
「えっと、じゃあ今度会ったらで!」
「今度か。まぁ、機会があったらな」

変な蛮族だと苦笑した阿伏兎は、軽く口約束をして歩いていった。
残された銀時は暫くその後ろ姿を眺め、ふと我に返った。


「……あれ? きっかけしか作ってなくね?」


あれだけ走って探しまくって、結果としてどこら辺があの世界に近づいたのか。
ほぼきっかけしか作っていない事実に疑問しか浮かばなかった。



キカイがあったら
何でもできるとは限らない。


end
(2012/10/10)
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