銀阿

珍しい酒を手土産に、阿伏兎が万事屋に来たのは数刻前。
ちびちびと酒を飲み、銀時はちらちらと相手を眺めた。

「そう言えば、嬢ちゃんは今日はいないのか?」
「あー、神楽ね。神楽ならたしか新八の所に泊まりに行った」
「ほぉ、嬢ちゃんも隅に置けんな。団長が知ったら殴り込みに行きそうな話だ」
「いやいや、そんな色気のある話しじゃないから。そんな度胸ないからきっと」


話しをしながらも、その内容以外の事へと意識は傾いていた。

大食漢の夜兎も酒に関しては人並みらしく、酒を飲めばそれなりに酔うらしい。
ほんのりと朱のさした目元や、どこかぼんやりと定まらない目。
さらに万事屋に二人っきりと言う、何処までも美味しい場面。

考えるなと意識すればするほど意識をして、不埒な方向へと考えが傾き続けていった。


「どうかしたのか? 旦那」


酒をあまり飲まない様子を疑問に思った阿伏兎は銀時へと視線を移した。
視線を向けられたことにより余計に相手の顔が鮮明に見え、銀時は悶々とした。

「そ、そういえば、この酒何処で買ったの?」

必死に堪えながら、話しを反らすように話題を振る銀時。
その質問に飲む手を少し緩めて阿伏兎は答えた。


「罰霞須星だ、団長が気まぐれを起こして寄ることになった」
「へー……」

酒の聖地、罰霞須星。
気の知れた団員達と行ったのなら、その場で宴会でもしたのだろう。
つまり地球に寄ったのはおまけのようなものか、と銀時は鈍った頭で考えた。


なにも言わなくなった銀時に対し、阿伏兎は酒を飲む手を止めてから口を開いた。


「美味い酒が手に入って、急に旦那と飲みたくなった」
「え?」
「それから、多少強引に宴会を蹴って地球に来た」
「…………」

目を見開く銀時に、苦笑するように阿伏兎は続けた。


「――この答えじゃ足りんか?」



その後、静かな室内で何かが切れる音が聞こえた。


end
(2011/05/16)
恋人同士で飲む5題
2:(襲っちまうぞバカヤロー…!)
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