断片話

◆心中


「阿伏兎って俺と以外なら心中したがるよね」

にこやかな顔で相手は訊いてきた。
そんな相手に鼻で笑ってから阿伏兎は口を開いた。

「さて、何の事やら身に覚えがな――」

言葉を言い切る前に、突き刺す勢いで顔へと番傘の先が向かってきた。
それを軽く首を傾ける事で避けた阿伏兎は、攻撃を仕掛けてきた相手を見下ろした。

「死ぬのは俺とは嫌?」
「おいおい。物騒な話を物騒にも人の顔の横に傘突き立てながら言うかねェ、普通?」
「ほら、他人と一緒に死なれるぐらいなら一思いに俺が殺してあげた方が良いかなって」
「なんともまぁ、ぶっ飛んだ思考で」
「俺の事。好きなんだよね? 阿伏兎」
「まぁ、そうだな」
「なのに、何で俺以外の夜兎となら心中したがるの?」

夜王鳳仙の時もそうだった、と呟きながら神威は番傘を壁から引き抜き。
阿伏兎の首元へと銃口を向けながら、相手の目を見据えた。

「約束してよ、阿伏兎。俺以外と後追いも心中もしないって」


(2015/10/26)
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