断片話

◆心配されない


「あんたが倒れる所なんざ、考えたくもない。いや、考えられんな」

皮肉気に笑いながら言う阿伏兎の言葉に、安堵した。

「そう? 俺だって死ぬ時は死ぬよ、たぶん」
「アンタが死ぬようなたまかよ。憎まれっ子世にはばかるを体現してるようなアンタが」
「酷い言いぐさだね」

弱る所など見る事は無いと断言してくれる阿伏兎。
その事が凄く嬉しかった。

心配した顔なんて見たくない。
絶望したように此方の名前を呼ぶ声だって嫌いだ。
ただ此方の言い分を信じて深入りしない。
本当に怪我をして帰ってきても、いつも通りに接してくれる。

傷は? なんて訊いてこない。
気付かなくてもいい、気付かない方が嬉しい。
人に心配されるのは苦手だ。
だから笑顔でいるのに。

怪我なんて放っておいても治るんだから、心配なんてされたくもない。
何でもない振りをするのは、あの頃より凄く上手になった。
怪我を心配しない阿伏兎の傍は居やすい。
心配した顔なんて見たら、殺しちゃいそうだ。


(2015/04/11)
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