断片話
◆注:続・オメガバース
(α神威×β阿伏兎)
「これは……また酷い香りだな」
むせ返りそうなほどの香りに眩暈がしそうだった。
Ωの香りも行き過ぎればβすら引き寄せる。
αでなければ関係がないと言いきれない所が忌々しい。
「抑制剤抜きの捨て駒か、確かに効きはするだろうな」
Ωの匂いにうといβですらグラつかせる。
そんなモノを敵の前に置き去りにすれば、時間稼ぎにはなるだろう。
見れば団員達の足取りが一様に遅くなった。
この中でも優々と動けるのは――
「……団長?」
確かな足取りで匂いの発生源へと向かう後ろ姿に、一瞬呆けた。
同時に、わずかな危機感と期待が込み上げた。
敵の用意した駒だと言う危険性はあるが、仮に。
仮にこの匂いの主が、団長の番のものだとしたら、と。
「此処だね」
厳重な扉を前に呟き、早々にその扉を蹴り破った後。
中にいる者に神威は目を細めた。
「酷い臭いをまき散らさないでよ、迷惑だろ?」
仕込み銃を何のためらいもなく発砲し。
僅かばかりに薄れた匂いと火薬臭漂う部屋に満足気な笑みを浮かべて振り返った。
「よし。消臭終り! 早く次に行こうか」
「…………はぁ?」
「ほら、早く行くよ、こんな酷い臭いの所さっさと出ようよ」
「いや……おい、団長? あんたこの匂いを前に何とも思わないのか?」
「え? 何が?」
「こう、下の方に直撃して理性を取っ払いたくなる感覚とかは?」
「別に?」
「別にって……」
「酷い臭いだとは思うけど、昔からよくしてた悪臭だし何とも思わないよ」
「……悪臭?」
「悪臭だろ?」
「いやいや、これはあんたの番にもなりえる奴らが出す匂いで、むしろ良い方の……」
「へーそうなんだ」
「そうなんだって……」
いま一つ分かっていない様子で返す相手に、思わず頬が引きつった。
「どうでもいいけど、さっさとこんな仕事終わらせようよ」
「……そうだな」
何を言っても無意味そうだと理解し。
仕事を終わらせたがっている上司の命令を聞くことにしたが。
Ωが出す匂いを悪臭だと言いきる様を思い返し。
団長の番探しの難易度が輪をかけて酷くなった気がした。
■
「嫌な臭いだね」
色々なものがごちゃ混ぜになった臭いに、相変わらずだと思いつつ通路を進み続けた。
「早い帰りだな、団長」
「ただいま、阿伏兎」
「で? 随分と不快そうだが、詰まらん仕事だったか?」
「そこそこ楽しかったよ?」
「ほぉ、それはそれは」
では何故といった顔で見てくる阿伏兎を無視して、思い切り抱き着いた。
「相手でもしろと?」
「俺がただ抱き着いただけで随分な言い様だね」
「は! 何を今さら」
「別に、今はそう言う気分じゃない、かな?」
「疑問系か」
「阿伏兎ってほっとする匂いだね」
「そうか? βなんざΩと違ってただの体臭だろうに」
「それでも、阿伏兎だからいいよ」
「おい…ッ、人の首に噛み付くな」
じゃれ合う過程で無性に噛み付きたくなって歯をくい込ませれば。
呆れ混じりながらも阿伏兎は軽く警告する程度だった。
「ねぇ、阿伏兎」
「何だ? 団長」
「今ので阿伏兎って俺の番になった?」
「なる訳あるか。噛み付かれて番になるのはΩだけだ」
「ふーん」
「あんたもその内、番にしたくてしたくて堪らない匂いの奴に出会うさ」
(2019/03/21)
(α神威×β阿伏兎)
「これは……また酷い香りだな」
むせ返りそうなほどの香りに眩暈がしそうだった。
Ωの香りも行き過ぎればβすら引き寄せる。
αでなければ関係がないと言いきれない所が忌々しい。
「抑制剤抜きの捨て駒か、確かに効きはするだろうな」
Ωの匂いにうといβですらグラつかせる。
そんなモノを敵の前に置き去りにすれば、時間稼ぎにはなるだろう。
見れば団員達の足取りが一様に遅くなった。
この中でも優々と動けるのは――
「……団長?」
確かな足取りで匂いの発生源へと向かう後ろ姿に、一瞬呆けた。
同時に、わずかな危機感と期待が込み上げた。
敵の用意した駒だと言う危険性はあるが、仮に。
仮にこの匂いの主が、団長の番のものだとしたら、と。
「此処だね」
厳重な扉を前に呟き、早々にその扉を蹴り破った後。
中にいる者に神威は目を細めた。
「酷い臭いをまき散らさないでよ、迷惑だろ?」
仕込み銃を何のためらいもなく発砲し。
僅かばかりに薄れた匂いと火薬臭漂う部屋に満足気な笑みを浮かべて振り返った。
「よし。消臭終り! 早く次に行こうか」
「…………はぁ?」
「ほら、早く行くよ、こんな酷い臭いの所さっさと出ようよ」
「いや……おい、団長? あんたこの匂いを前に何とも思わないのか?」
「え? 何が?」
「こう、下の方に直撃して理性を取っ払いたくなる感覚とかは?」
「別に?」
「別にって……」
「酷い臭いだとは思うけど、昔からよくしてた悪臭だし何とも思わないよ」
「……悪臭?」
「悪臭だろ?」
「いやいや、これはあんたの番にもなりえる奴らが出す匂いで、むしろ良い方の……」
「へーそうなんだ」
「そうなんだって……」
いま一つ分かっていない様子で返す相手に、思わず頬が引きつった。
「どうでもいいけど、さっさとこんな仕事終わらせようよ」
「……そうだな」
何を言っても無意味そうだと理解し。
仕事を終わらせたがっている上司の命令を聞くことにしたが。
Ωが出す匂いを悪臭だと言いきる様を思い返し。
団長の番探しの難易度が輪をかけて酷くなった気がした。
■
「嫌な臭いだね」
色々なものがごちゃ混ぜになった臭いに、相変わらずだと思いつつ通路を進み続けた。
「早い帰りだな、団長」
「ただいま、阿伏兎」
「で? 随分と不快そうだが、詰まらん仕事だったか?」
「そこそこ楽しかったよ?」
「ほぉ、それはそれは」
では何故といった顔で見てくる阿伏兎を無視して、思い切り抱き着いた。
「相手でもしろと?」
「俺がただ抱き着いただけで随分な言い様だね」
「は! 何を今さら」
「別に、今はそう言う気分じゃない、かな?」
「疑問系か」
「阿伏兎ってほっとする匂いだね」
「そうか? βなんざΩと違ってただの体臭だろうに」
「それでも、阿伏兎だからいいよ」
「おい…ッ、人の首に噛み付くな」
じゃれ合う過程で無性に噛み付きたくなって歯をくい込ませれば。
呆れ混じりながらも阿伏兎は軽く警告する程度だった。
「ねぇ、阿伏兎」
「何だ? 団長」
「今ので阿伏兎って俺の番になった?」
「なる訳あるか。噛み付かれて番になるのはΩだけだ」
「ふーん」
「あんたもその内、番にしたくてしたくて堪らない匂いの奴に出会うさ」
(2019/03/21)