断片話

◆惚れた病に薬なし


引けば解けるほど緩く結んだ訳でもない目隠しの結び目。
その布の端をもてあそぶ様に指先に絡めながら神威は口を開いた。

「ねぇ、阿伏兎。いっその事、目隠しを取って俺を見ない?」
「断る。何が悲しくて理性の欠片もない状態になりたがるバカがいるか」
「誰に惚れるか分からない状況が続くぐらいなら、俺に惚れた方が早いだろ」
「思わん。いい加減、布から手を離せ。団長」

相手が触れてくる頻度の高さに、阿伏兎は身動ぎをした。
見えない分神経を尖らせている中、触れられるのは居心地が悪い。
何を考えているのかと目隠しの下で眉間にシワを寄せた。

「団長。あんたまさか、服についてた残り香にやられたなんて事は……」
「残り香程度の惚れ薬に、俺がやられたとでも?」

心外だと言わんばかりの口調の神威は、布の端を手放しながら反論した。

「そんなものなくても、俺はとっくに阿伏兎に惚れてるよ」


(2014/08/08)
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