断片話

◆仮上司


「あんたなぁ、この程度の用件でわざわざ呼び出すな、このすっとこどっこい」
「そう言うなよ。誰も近づかないからお前を呼ぶしかなかったんだよ」

書類の山を運ぶ阿伏兎は、ニコニコと笑う神威にやけくその様に言い放った。

「はいはい、そうでございましょうねぇ。誰が好き好んで気に食わんことがあるとすぐさま殺す上司様の所になんぞ行きたがるか」
「副団長の方が人望があるのにね」
「そう思うなら、あんたも少しは殺すのを控えろ」
「仕方ないだろ。不愉快だったんだから」
「その内、俺も見限るぞ」
「別にいいよ?」

飄々と言ってのける神威に、阿伏兎は眉を寄せてしかめ面を作った。

「あんたは仮にも鳳仙の旦那の推薦で団長になったんだろ」
「だって、強い奴と戦えるって聞いてたから団長になったのに、聞いてた話とだいぶ違うんだもん」

やる気なんてなくなるに決まってるだろと言いたげに笑顔を作る神威。
このいい加減な上司に何を言っても無駄かと阿伏兎はため息を吐いた。


(2012/04/28)
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