断片話
◆記憶喪失
「まあ、団長が要らないと言うなら、仕方ない事か」
神威が言った言葉を思い出しながら呟いた。
思い出してもため息が出る。
一人荒地を歩きながら、阿伏兎は今の自分が置かれた状況が、非常に危ういものだと認識していた。
「しかし……まだ席を置いてる事がバレたら、本当に戻る場所がなくなるな」
日傘を少し上げ、前方から徐々に見えてくるものを静かに眺めた。
「さて、敵さん御一行を相手した後は、どう上に誤魔化そうかねぇ?」
■
「ねぇ、次の白兵戦ていつ?」
「……当分の間は予定ありません」
楽しげに訊く神威に対し、質問された部下は硬い声で答えた。
「つまんないなー、白兵戦の予定が入っても突然なくなって。何か原因でもあるの?」
「それは、抑制が思いの外楽なものばかりだったようで……」
「そう、でも俺は戦いたいんだよ。上に伝えて何か戦える所見つけてくれる?」
「分かりました」
「期待してるよ、副団長」
神威からの言葉に、部下は僅かに苦い顔をした。
一礼をした後、部下は詰らなさそうに書類を流し読みする神威を残し、部屋を出た。
■
部下が出て行った後、神威は読んでいた書類を机に放り、何かを考えるように宙に目をさ迷わせた。
暫く宙に目をさ迷わせ、結論の出そうにない事に考えを止めた。
「あの元副団長何処に行ったんだろ?」
名前を聞く前に切り捨てた人物。
その時は、ただ覇気のない男が自分の部下だという事に苛立ち、気にも留めなかった。
けれど時間がたった今、名前ぐらいなら聞いておけばよかったと思った。
「まあ、弱い奴に興味ないからいいか」
■
「団長が白兵戦を遣りたがってる?また面倒な事になってるな」
『副団長! そろそろ帰ってきてください!!』
「アホか、大の大人が泣き言を言うな。仮にも副団長に指名されたんだろ? 団長の記憶が戻るまで、泣き言を言ってる暇があれば書類の一つでも処理してろ」
『限界があります!!』
「帰って手伝ってもいいが、それをするとややこしい事になる。暫くは頑張れ」
電話の向こうで悲鳴のような声が上がった。
周りにいるらしい団員達の分も聞こえたが、聞かなかったことにして続けた。
「団長には何処かの戦場を用意しろ。ただし、間違ってもこっちの情報は漏らすなよ?」
返答を聞く前に通話を切った。やれやれ、と首を振り、阿伏兎は携帯電話をしまい込んだ。
■
「こんな所で何してるの、元副団長さん」
「これはこれは、元上司様。何と言われましても見ての通りですよ」
軽く回答しながら阿伏兎は内心で酷く焦った。
何故、此処にいるのかと問い詰めたくなった。
「見ての通りって、荒地で一人歩いてるの見て分かる奴っている?」
「戦場に赴く途中か、帰還する前か、夜兎がこんな所にいる理由なんざ限られてくるもんだろ」
「ふーん、そこまで考えなかったな」
ケラケラと笑う神威。
何を企んでいるんだと阿伏兎は注意深く相手を眺めた。
「それで? 元上司様がこんな所にいる理由は何ですかねぇ」
「理由? ……ああ、何でだっけ?」
そんなものはこっちが聞きたいぐらいだ、と言いたくなるのを抑え、阿伏兎は考える素振りを見せる神威の回答を待った。
(2011/07/11)
「まあ、団長が要らないと言うなら、仕方ない事か」
神威が言った言葉を思い出しながら呟いた。
思い出してもため息が出る。
一人荒地を歩きながら、阿伏兎は今の自分が置かれた状況が、非常に危ういものだと認識していた。
「しかし……まだ席を置いてる事がバレたら、本当に戻る場所がなくなるな」
日傘を少し上げ、前方から徐々に見えてくるものを静かに眺めた。
「さて、敵さん御一行を相手した後は、どう上に誤魔化そうかねぇ?」
■
「ねぇ、次の白兵戦ていつ?」
「……当分の間は予定ありません」
楽しげに訊く神威に対し、質問された部下は硬い声で答えた。
「つまんないなー、白兵戦の予定が入っても突然なくなって。何か原因でもあるの?」
「それは、抑制が思いの外楽なものばかりだったようで……」
「そう、でも俺は戦いたいんだよ。上に伝えて何か戦える所見つけてくれる?」
「分かりました」
「期待してるよ、副団長」
神威からの言葉に、部下は僅かに苦い顔をした。
一礼をした後、部下は詰らなさそうに書類を流し読みする神威を残し、部屋を出た。
■
部下が出て行った後、神威は読んでいた書類を机に放り、何かを考えるように宙に目をさ迷わせた。
暫く宙に目をさ迷わせ、結論の出そうにない事に考えを止めた。
「あの元副団長何処に行ったんだろ?」
名前を聞く前に切り捨てた人物。
その時は、ただ覇気のない男が自分の部下だという事に苛立ち、気にも留めなかった。
けれど時間がたった今、名前ぐらいなら聞いておけばよかったと思った。
「まあ、弱い奴に興味ないからいいか」
■
「団長が白兵戦を遣りたがってる?また面倒な事になってるな」
『副団長! そろそろ帰ってきてください!!』
「アホか、大の大人が泣き言を言うな。仮にも副団長に指名されたんだろ? 団長の記憶が戻るまで、泣き言を言ってる暇があれば書類の一つでも処理してろ」
『限界があります!!』
「帰って手伝ってもいいが、それをするとややこしい事になる。暫くは頑張れ」
電話の向こうで悲鳴のような声が上がった。
周りにいるらしい団員達の分も聞こえたが、聞かなかったことにして続けた。
「団長には何処かの戦場を用意しろ。ただし、間違ってもこっちの情報は漏らすなよ?」
返答を聞く前に通話を切った。やれやれ、と首を振り、阿伏兎は携帯電話をしまい込んだ。
■
「こんな所で何してるの、元副団長さん」
「これはこれは、元上司様。何と言われましても見ての通りですよ」
軽く回答しながら阿伏兎は内心で酷く焦った。
何故、此処にいるのかと問い詰めたくなった。
「見ての通りって、荒地で一人歩いてるの見て分かる奴っている?」
「戦場に赴く途中か、帰還する前か、夜兎がこんな所にいる理由なんざ限られてくるもんだろ」
「ふーん、そこまで考えなかったな」
ケラケラと笑う神威。
何を企んでいるんだと阿伏兎は注意深く相手を眺めた。
「それで? 元上司様がこんな所にいる理由は何ですかねぇ」
「理由? ……ああ、何でだっけ?」
そんなものはこっちが聞きたいぐらいだ、と言いたくなるのを抑え、阿伏兎は考える素振りを見せる神威の回答を待った。
(2011/07/11)