断片話

◆最善の回答


「もういいよ」

短い一言と共に、不機嫌そうに相手は背を向けて歩き出した。
その背が見えなくなってから、ようやく息を吐いた。
安堵と少しばかりの悲愴。
飲み込んだ言葉を思い返し、馬鹿なことを考えたものだと自嘲した。
言いそうになった言葉は、相手にとっては一番望んだ答え。
ただしそれは、言うべきではない間違った解答。
言える訳がない、そんなものは百も承知のはずだ。

「若いってのは怖いもの知らずだ……」

保身ばかり考える此方とは大いに違うものだと、相手の素直さが羨ましく、同時に歯痒かった。
いっそ言えばよかったのか、何も考えず、感情のままに言えば良かったのか。
それが一時的なものでも、子供の感情に振り回される事でも、言えばよかったとでも言うのか。


(2011/04/16)
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