断片話

◆臆病者


「何で抵抗しないの?」
「抵抗して、何か良い事でもあるんですかねぇ」
「俺が上司だから? それとも同族だから許すの?」
「何が言いたいんだ、団長」

自分の上に馬乗りになっている人物を呆れたように阿伏兎は見た。

「ずるいよね阿伏兎は、何で抵抗したり拒んだりしないの? 変な期待持たせられてるみたいで嫌なんだけど」
「期待、ねぇ。そう言うからには団長は俺のことが好きだとでも?」
「好きだよ。俺のものにしたいし、誰のものにもさせたくないぐらい」
「…………始めから素直にそう言えばいいものを、このアホ団長が」

痛む体を起き上がらせ、阿伏兎は相手を正面から見据えた。

「みっともなく泣きそうな顔までして随分とかっこ悪いもんだ」
「誰が泣きそうなの?」
「あんた以外いないだろ。たく、何でもかんでも暴力で押さえ込んでおきながら泣きそうなツラじゃ様にならんな」

ため息をついてから阿伏兎は神威の頭へと手を伸ばし、乱暴に撫でた。

「一人で自己完結も結構な事だが、誰があんたの事を嫌いだと言った?」


(2011/03/25)
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