断片話

◆気遣い


「おかえり、阿伏兎」

血の匂いを纏わりつかせて帰ってきた阿伏兎へと振り返り、いつもの笑顔で迎えた。

「……報告書なら後で出しますよ」
「そう……」

体力的に疲れた訳でもない様子。
けれど、普段からすれば幾分疲れたような、気の抜けた返事が返ってきた。

「阿伏兎、もしかして敵側に夜兎がいたの?」

自室に向かい歩き出していた背に声を投げ掛ければ、足を止め、やや緩慢に振り返ってきた。

「ええ、いましたが? 団長のためにとっておいた方がよろしかったですかねぇ?」

目を細めうろんげに言う阿伏兎に、そうだね、と答えた。

「俺なら共食いでもなんでもできるからね」

言葉を返しながら、道理で、と内心で呟いた。
事前にはいないてされていた夜兎族。
それらを手に掛けたなら、阿伏兎の様子も頷ける。

「慰めてあげようか?」
「これはこれは、随分と優しい事で。ですが、そんなものは必要ありませんよ、何せ手を掛けたのはただの弱い兎だ」

いるのは強いものだけで十分だろ、と言う阿伏兎に、本当に自分が行けばよかったと思った。


(2011/03/11)
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