断片話

◆傭兵


笑ってしまうようなちゃちな殺気を隠しきれないチンピラの気配を感じ、阿伏兎は考えていたことを止めた。
最後に残った裏の世界も相手の方から見れば自分は歓迎されていないようだと解った。

「夜兎族の方がこんな処に何の用ですかぁ?」

柄の悪い三下ほど突っかかるものだと思ったが、友好的ではないその様子に、やはり何処へ行っても夜兎族は余り歓迎されないようだと感じた。

「なに、できれば暫くの間置いてもらおうかと思ったんだが……無理な相談だったようだなぁ?」
「信じられっかそんな話し! テメーうちの組の奴らを殺しまくってる様じゃねぇか!!」

此処までに来る間、何人かの集団で襲い掛かって来たのはこの天人達の組だったのかと怒声を響かせる目の前の人物達を見て思った。

「それは、そちらさんが悪い。こっちは友好的に声をかけただけだ。それをいきなり襲い掛かってきたのはそっちだろ?」

呆れたように言う阿伏兎に怒髪天をつく勢いの天人達。

「俺は、夜兎族以外には優しくは無いが、殺してはいないつもりだったがねぇ?」

その言葉に頭に血が登りつめた天人達は今までのチンピラ達のように襲い掛かってきた。
傘を手放すまでも無く、軽い蹴りの一撃で吹き飛んで行く天人達。
派手な音を立てて壁に激突するが、さして致命傷までにはいっていなかった。
ただ、暫くの間は起き上がることさえできないだろうと思った。

「夜兎族には厳しいねぇ……」

何処に行っても夜兎族は他者には歓迎されない。
一時は歓迎されてもその強さゆえか扱いきれなくなり、待っているのは拒絶だけだった。
元々夜兎族は同族さえも己の闘争本能の相手として殺し合い、孤立していく。
何処に居ても独りになる、まさかこんな偏狭の地でそれを思い出すとは思ってもみなかった。


(2011/03/06)
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