銀阿

結局、捕まえる事はできないのかと、早々に帰り支度をする阿伏兎を見て思った。

「引き留めないのかい、旦那?」
「どーせ引き留めても無駄なんだろ?」

何気なく訊いてくる相手に返答する。

例えば、此処でベタではあるが、自分と仕事、どちらが大切だと訊いたとする。
それに対し相手は、それは選べるものなのか? と逆に質問し、あやふやにする。

つまりは、暗に仕事が大切だと言っている人物を、引き留めるなんてことは結局の所できない。


「旦那がどうしてもと言うなら、留まっても良いが?」

紡がれた問いは、留まってくれと言われるのを待つかのように耳に響いた。
誘うように、どうする、と疑問を投げかける目。
苦笑ともとれる阿伏兎の笑み。
どれを取っても、引き留めて欲しいと言わんばかりだった。

できるなら、一緒にいたい。
生ぬるい事は百も承知で、このままずっといてくれと言いたかった。


「いや……この前、それで余計に会えなくなったし……」

激しい葛藤の中、前の事を思い出し、押し止めた。

前に、同じ問いを投げかけられ引き留めたばかりに、その後、連絡の一つもなく数ヶ月が過ぎた。
数ヵ月後に会った時、理由を訊いて見れば、引き留められている間に仕事が溜まっていたと軽く返された。
うかつに此方の要求を言うと軽く了解はするが、その後が怖いと、あの時胸に刻み込んだのだ。

前の教訓を覚えていた答えに、阿伏兎は喉の奥で笑った。


「ほう、残念だねぇ。旦那が是非にと言うなら、もう暫く留まっても良いと思ったんだが」


残念だと言いつつ、その声はからかうように紡がれていた。



わるい問い
「いじわるくね? 銀さん、とーっても傷つくんだけど?」
「すねて可愛いのは嬢ちゃんか団長ぐらいだと思うが? 銀時の旦那」


end
(2010/07/24)
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