かむあぶ 2

「今日って阿伏兎の誕生日だよね」
「……そうだな」

あと二、三時間後には日付が変わると言う微妙な時間帯。
今日一日あれだけ部下達に口止めしていた事が、ついにばれたかと身構えた。
ただただ平穏に、何もない一日として終わって欲しいと言う願いは、ついぞ叶わない事を悟った。

さっきまで備え付けの引き出しを漁っていたはずの年下上司。
何かを持ちながらにこやかに近付いてきた時点で嫌な予感しかしない。


「誕生日おめでとう、阿伏兎」
「そりゃ、どうもご丁寧に……で、これは何ですかねェ? 団長様」


目の前に差し出された物を受け取り、率直な質問。
ニコニコ顔で渡してきた相手は、その質問にきょとんとした顔をした。

「傘の柄に付ける飾りだけど?」
「いや、用途的なのじゃなくてだな」
「阿伏兎、誕生日に渡す物なんてプレゼントの他に何かある?」
「あんたが普通のプレゼントを用意してる訳がないだろ!?」
「俺が普通じゃないプレゼントを阿伏兎に渡した事ってあった?」
「嘘を吐くな、嘘を!」

今まで誕生祝いでろくでもない物を渡されてきた事は数知れず。
手を替え品を替え、散々まともじゃない祝われ方をされてきた事も数知れない。
だからこそ、今年こそ平穏に、何事もなく誕生日を終えたいと思っていたと言うのに。


キリッとした顔で平然と嘘をつくなと、と若干の呆れ混じりの目を相手に向ければ。
誤魔化しきれなかったかとばかりに、相手の顔が笑顔へと戻った。

「まあ、細かい事は置いておいて」
「細かくないからね。全然細かくないからね」
「明日から絶対付けてね、阿伏兎」

断る事を端から考慮していない上司からのお願いに、顔が引き攣った。

「いやいや、付けたらオチオチと傘を扱えなくなるだろ」
「失くしてもいいよ、何度でもあげるから」
「そりゃ太っ腹なもので……」

そこまでして付けさせたいのかと、逃げ道がない事を悟り遠い目をしたくなった。
明日以降、色々と察した部下達から生暖かい視線を向けられる事が決定した瞬間だった。

「ちゃんと付けてね? 阿伏兎」
「はいはい、分かりましたよコンチクショー」



プレゼントは
ろくでもない物の方が気楽だった。


end
(2017/02/10)
34/40ページ