かむあぶ 2

「阿伏兎、柿の種あげるからソレちょうだい」

表面を醤油などで味付けした米菓、柿の種。
ではなく、本当に柿を食べつくした後に残った種。
ソレと指差されるのは、食べかけの握り飯。
むちゃぶり過ぎる神威の発言に、阿伏兎は口元を引きつらせた。


「いやいや、不公平だろ。どこの世界に食い残しの種と握り飯を交換する奴がいる?」
「地球の昔話だと、おにぎりと交換した柿の種を埋めると一晩で柿の木が育つんだって」
「残念ながら普通の種では無理でしょうねぇ。と言うか、猿蟹合戦とジャックと豆の木が混ざってないか?」
「もしかしたらこの種は普通じゃないかもしれないだろ?」
「何がもしかしたらだ。夢を見るにしても、もう少し現実を見ろ」

とにかく、握り飯渡す気はないと言い切り、さっさと食べようとするが、視線がかなり突き刺さってきた。
じーっと見られている中食べると言うのも割と恥ずかしいもので、耐えかねたように阿伏兎は食事を中断した。

「だいたい、食料は等分に渡しただろ」
「おにぎり十個と沢庵が少し、後は柿が五個じゃ足りないよ」
「特大の握り飯十個の時点で、普通は腹いっぱいなんだよ」
「阿伏兎。食欲旺盛な十代の胃袋には全く足りない」
「さようですか。どーせこっちは食欲減退気味の三十代ですよ」

減らず口を叩く相手を黙らせるように、まだ手つかずの握り飯を投げ渡し。
食べかけの握り飯へと阿伏兎は齧り付いた。

「……何だ、団長? まだ足りんのか?」
「どうせなら、そっちのおにぎりがいいな」

渡したはずの握り飯へ手を付けない神威に疑問を持ち、質問をした阿伏兎は片眉を上げた。
隣の芝生は青く見える現象、にしては明らかに量が違う。
どう考えても食べかけの方が量が少ない。

「どの握り飯も大して変わらんだろ」
「阿伏兎が食べてるおにぎりが欲しい」
「人の物を何でもかんでも欲しがるな」
「そっちの方が美味しそうに見えるからしょうがないだろ?」
「何が、しょうがないだろ、で? わざわざ手つかずの握り飯渡した部下の配慮を無駄にする気か?」

訳が分からん、と神威の言い分を無視して阿伏兎は手に持っていた握り飯を早々に処理した。

「阿伏兎」
「今度は何だ、団…ッ!?」

思いのほか至近距離にいた神威の顔に、思わず阿伏兎は体を仰け反らせた。
もっとも、体を仰け反らせた矢先に相手に頭をガッシリと固定され、逃げる事は許されなかった。
そのまま人の口元を舐めとっていった神威は、爽やかな笑みで離れていった。


「やっぱり阿伏兎が食べてたおにぎりの方が美味しいね」


人の口元についていた米粒を食べながらの発言。
理解不能な神威の行動を前にどっと疲れが出たのか、阿伏兎は残りの握り飯へと手を付けようとはしなかった。



おべんとう
「アリ? どうかした阿伏兎? もう食べないの?」
「あんたのせいで食欲がなくなったんだよ、コンチキショー」


end
(2015/06/01)
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